本書のはじまりはスーフィズム(イスラーム神秘主義)、コーヒーなる奇怪な媚薬の起源を
たどってみると、それはやがて人種や宗教の絡み合った世界史のカオスへと流れ着く。
例えば、近代市民革命の舞台装置としての公的空間はコーヒーの介在なしでは
成り立ちえなかった? 例えば、ドイツをアフリカ植民地政策へと駆り立てたのは
コーヒーへの果てなき熱意だった?
黒き混濁の向こうを透かしてみれば、その果てに広がっていたのは
あまりに象徴的な世界史をめぐる「寓話」だった…
他のレビューによって既に散々指摘がなされている通り、本書は必ずしも膨大な史料や
重厚な考察のもとでコーヒーと世界史の関わりを概説する、などという一冊ではない。
一歩間違えると、プランテーションのはじまりはコーヒー、などという紛らわしい誤読の
可能性もあってしまうわけで、その点軽率と言えば軽率なのかもしれない。
全体に奇を衒っただけの一冊、と看做される方もおそらくはあろうかと思われる。
ただし、コーヒーをめぐる非常に肩の力の抜けた史的エッセイとして読めば、
それ相応には楽しめるだろう一冊、もちろん力作には違いないのだけれど。