これは面白い!
たまたま目にした『R25』のブックレビューで本書を知った。
「コンニャク屋」というのは単に著者の先祖の屋号であって、蒟蒻の話は殆ど出てこない。
星野氏は漁師の末裔であり、したがって、壮大な海が物語の鍵となる。
本書は、大好きな祖父が晩年に書き残した手記をもとに、著者が自分のルーツを探っていった記録である。
祖父の代から東京に移り住むようになり、星野氏は町工場の娘となったが、
元々は、千葉は御宿の漁師家系であった。
そして、調べを進めていくうち、その祖先は紀伊方面に求められることが判明していく。
どうして、祖父は東京に来なければならなかったのか?
御宿とはどういう場所だったのか?祖父の東京時代は?
祖先はどうして、和歌山からわざわざ千葉へやってきたのか?
その疑問に対する温かな想像を確かなものにすべく、著者は漂流する。
一番面白かったのは、著者が墓石の記録をもとに和歌山は加太に降り立つ場面だ。
何のたよりもなく訪れた地であったが、さっそく嬉しい出会いが連続する。
著者とその調査に付き合ってきた読者は、その興奮を共有できるけれども、
何も知らない地元民はきょとんしたことだろう。
その温度差が想像できて、思わず吹き出してしまった。
著者の親族は個性豊かな人々ばかりである。
それにまた、著者自身の豊かな感受性が手伝って、本書を魅力的な作品に仕上げていると思う。
親族同士の会話描写もいい。
「じいさんは悲しまない。前に進もうとする息子に、いつも賛成してくれた」(158ページ)に感動。
スッと感情移入できたので、ヨソのお宅のルーツ探しであるにもかかわらず、
最後までワクワクしながらお付き合いする事ができた。
昔の海の民がエンヤコラセッセと舟を漕ぐ情景が目に浮かぶ。
こんな感覚で読める本は久しぶりだ。
私は千葉県出身で、御宿にも行った事があるけれど、
本書を読んでから再び同地で太平洋を眺めたら、全く違う景色が見られるだろうと思った。
尚、このような大海を舞台とした読み物を好む方には、
奥野修司『ナツコ:沖縄密貿易の女王』をお薦めしたい。
とても読み応えのあるノンフィクション作品である。