代謝と言う極めて複雑にしてかつ精妙な人間の体の働きに対して、コレステロール値のような単一の生化学測定値のみに着目して「上げ」「下げ」を議論している現代医療界およびマスコミ報道に警笛を鳴らす一書。現在の医療では、動脈硬化度や狭窄度を直接かつ簡便に測定する方法がないので、その代替方法として間接的指標であるコレステロール値が使われており、コレステロールの本来の役割は無視され、その値だけが一人歩きしている感が拭えません。「コレステロール=悪者」と言う製薬会社の思惑が見え隠れする主張にマスコミまでが口を合わせて喧伝している現状に一石を投じる本書の価値は低くないものがあります。
私に取って個人的に最も役に立ったのは、人体内におけるコレステロールの役割と、コレステロール降下剤がいかにコレステロールを下げるのかを説明した第三章「コレステロール低下剤の恐るべき害」です。コレステロールが生体に必須物質であり、コレステロールの生体内ので役割をしっかりと認識した上で、むやみやたらとコレステロール値を下げることがいかに危険であるかを説いています。この第三章は本当に勉強になりました。
逆に、第一章「コレステロールは高めが長生きの証拠」では、著者の主張したい「コレステロール値は高めが長生き」と言う結論に持って行くために意図的に研究調査データを取捨選択、また加工している点が気になります。せっかく患者の健康を第一に考えているはずの著者に対する信頼がこの章によって台無しになっています。もったいない限りです。この章は鵜呑みにせずに懐疑的に読んだ方が良いでしょう。
このように残念な点はあるものの、往々にして「病を見て人を見ず」という落とし穴に落ち込んでいるきらいのある現代医療に対して、本来医療というものは総体としての人間の健康に注意すべきであると言うのが本書の根底に流れている信念であり、私もそれには諸手を挙げて賛成します。
最後に、最近BusinessWeekに発表された「コレステロール低下薬で大論争」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20080125/145406/?P=1
を併せて読まれることをお勧めします。