かつて,ピーター・ドラッカーは1683年に開業した越後屋(今の三越)を取り上げた。マーケティングのはじめは越後屋の「現金掛け値なし」という引き札を江戸中に撒き,かつ「クレームに対しては即座に返品に応ずる」といったことであるといった。
世界で最も利益率の高いスーパー・マーケットのひとつを経営しているスチュー・レオナルドのニューヨーク市郊外にある店舗を訪問する機会があった。同社には次のような規則がある。
規則1: 顧客はいつも正しい。
規則2: もし顧客が間違っているならば,規則1に戻ること
と本書に書かれている。これはマーケティングの大原則,「顧客志向」ということだ。しかし,コトラーはすべての顧客が大切なことは間違いないが,ほとんどの企業にとって,ある顧客はそれ以外の顧客よりも重要な存在であるという。顧客を平等に扱っていないのである。利益のあがる顧客とそうでない顧客を分類する方法を説いている。顧客の最近の購買時点,購入頻度,購入総額によって分類し,個々の顧客の利益率について測定する方法を見つけなければならないというのだ。したがって,「マーケティングとは利益に結びつく顧客を見つけ出し,これを維持し,育てる科学であり,機能であると定義することができる」ということになる。
このように,本書の戦略的マーケティングは,今までのマーケティングの教科書にない企業にとって見逃すことのできない説得力のある内容を含んでいる。ときには激しすぎて,本当にこれでよいのかという気持ちにもなる。
第1章から,「技術革新はデジタル化に始まる」とし,テクノロジーの進歩,グローバル化,民営化による21世紀のマーケティングは大変身する。確かに,今始まったIT革命,デジタル放送の開始による通信と放送との融合など,生産形態が大量見込み生産から大量受注生産に変わりつつあるのに応えて,マーケティングもマスとしての顧客でなく,一人一人を対象に考えて行かなければならなくなった。
このような環境の変化に応じて,コトラーは今までのマーケティング成功の決まり文句を次々に否定し,マーケティングの正解は一つではないという。生産プロセスと同じくマーケティング・システムも一人一人に対応できるような仕組みを作らなければならないという。顧客を失った原因を精一杯努力して見つける。
もちろん,今までのマーケティングをすべて否定しているわけではない。市場調査によって顧客の需要を見つけ出すことから,マーケティングが始まることに変わりはない。しかし,この需要の発見の仕方にも新しい工夫が必要でありこれを紹介している。コトラーの名はマーケティングと同義語というが,日本企業も含めて多数の企業の事例もふまえていることが何より説得力を高めている。 (東京経済大学 コミュニケーション学部 教授 八巻 俊雄)
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