フラーの魅力のひとつは、その単純明快さです。例えば、本書のp217に「同心円上に拡がる完全な環状の波を繰り返し観察する場合、石ほど好都合なものはないだろう。まったく無対称な石を無造作に水中に投げ入れるだけでよいのである。構成単位となるひとつの〈存在(something)〉の実証には、一個の石があれば事足りる」とあります。水中に無造作に石を投げ入れた経験は、誰しもあることでしょう。ところが、フラーはこんなありふれた経験からでも、「構成単位となるひとつの〈存在(something)〉の実証」まで思考がすすんでしまいます。それは途轍もない飛躍に感じられますが、石を投げ入れた経験から、なるほどと頷かないではいられないのです。そこになんともいえない、単純明快さを伴った心地よさを感じることができます。
このような表現方法がフラーの特徴で、これをモデリングといいます。
難解な数式など使うことなく、ありふれたピンポン球などを使って、難解だとされてきた概念を、実際に経験することができるのです。ひとつの経験さえあれば、フラーの飛躍がなるほどと頷けるものに変わり、科学などといった高等で専門的な分野を、自分で経験のできる身近なものとして感じることができるのです。
翻訳者の梶川氏は、単なる翻訳者ではなく、フラーにデザインサイエンティストと唯一認められ、共同研究者として迎えられた人物です。フラーのモデリングによる理解を教授されてもいるので、そのモデリングを経験すると本書はモノトーンで難しそうなものではなく、極彩色で明快なものに感じることが出来ます。
これは私にとっては、いままで経験したことのない超刺激的な読書経験です。