「ビッグ・ウォレット戦略」というのは聞きなれない言葉だ。それもそもはず、著者古谷文太氏の造語らしい。しかし、この「大きな財布」という言葉が、本書に書かれている企業間協業戦略の新しい形を表す最適語だということは、読んでみればすぐにわかる。
経営統合でもなければ、サプライチェーンの一部だけに限った業務提携でもない第三の協業スタイルとしてとても興味深い。もし、この本がもう少し早く出版されていたら、最近破談になってしまったキリン=サントリーの統合にも、別の道が開けていたかもしれない。
ビッグ・ウォレット戦略とは、ひとことで言ってしまえば複数企業の持つそれぞれの財布(スモール・ウォレット)を束ねて、あたかも大きなひとつの財布(ビッグ・ウォレット)のように考えて全体最適化を図ることにより、結果として個々の財布も潤う(それぞれの将来キャッシュフローを最大化する)ようにしようという戦略である。
この戦略を、コカ・コーラのボトラーシステムというビジネスモデルの中で具体化した、著者の実践経験をもとに書かれている本書には、学者の唱える理論を越えた説得力がある。もちろん、ビッグ・ウォレット戦略がどんなケースにも使える万能戦略というわけではないのだが、その点についてもコカ・コーラビジネスの特殊性等も考慮した上で、どのような前提条件が揃っていることが必要で、どのようなリスクがあるかという点にも十分触れられていて、単なる一事例の顛末記ではない「戦略」と呼ぶにふさわしい内容になっている。
本書の最大の特徴は、「理論」と「実践」の両面からビッグ・ウォレット戦略について語られている点だと思う。計算上は正しい理論であっても、それを実践する上で著者自身が突き当たった多くの壁をどう乗り越えたのかが、当事者の言葉として語られており、実感を持って読むことができる。そして、プロジェクトを成功に導くのは、最後は人と人との信頼関係であるということを気づかせてくれた。
これから読まれる方には、ぜひビッグ・ウォレット戦略の理論だけでなく、いかにそれを実践に結びつけるかという点を、自社の状況に置き換えて読んでもらえれば、今後必ずあなた自身のビジネスに役立つ本だと思う。