著者たちは、東大の「ものづくり経営学」の大御所のお弟子さんのようだが、本書はまさに東大式「ものづくりイノベーション論」の集大成とも言うべきテキストだと思う。
語り口が柔らかく、事例も多いので読みやすいのだが、単なる入門書ではない。重要事項の説明には全く手抜きが見られないし、かなり幅広いトピックを扱っているにもかかわらず、ロジックは明快で、全体として主張が一貫しておりブレが無い。まさに、「無名の超大型新人現わる」という感じ。欲を言えば、記述が製品イノベーションに偏りすぎているので(これも東大ものづくり経営学の伝統か?)、サービス・イノベーションについても論じた中・上級テキストを書いて欲しい。
3章まではところどころ記述が堅い部分も残っており、まあ「ちょっと読みやすいかな」ぐらいの感じだったのが、4章くらいから記述がどんどん白熱してきて、一気呵成に読むことができた。特に、4章、5章、6章、11章は、それぞれの章を1つ読むためにだけでも、このテキストを1冊買うだけの価値があると思う。
特に私のお勧めは5章で、この章では「能力破壊型イノベーション」、「アーキテクチャル・イノベーション」、「破壊的イノベーション」(本の中では東大ものづくり経営学の伝統を踏襲して(?)「分断的イノベーション」となっている)の3つについて事例を交えて説明しているのだが、この事例・説明の濃さが半端ではない。特に、破壊的イノベーションの項の説明と、通信カラオケの事例は必読だと思う。
事例では、通信カラオケがそれ以前のLDカラオケに比してスペック・ダウン型のイノベーションであり、演奏の質も画像の質も著しく劣っており、従来のメイン顧客(スナックで「マイウェイ」や「別れても好きな人」などを唄う中高年層)からは当初全く見向きもされなかったこと。しかも、当時LDカラオケ機器で圧倒的な覇者であったパイオニアにとっては、自らのビジネスモデル(主に新譜交換や修理のサービスで儲けるビジネスモデル)を根こそぎ破壊するものであったため、カニバリゼーション(共食い)への恐れから通信カラオケでの追随が難しかったこと。しかし、最新のヒット曲がすぐに歌える、曲目数も多いという特徴が、安価な娯楽としてカラオケを楽しむようになった若者層には大ウケし、格安カラオケボックスという新たな顧客層向けで一気に成長を遂げることができ、性能も瞬く間に向上したため従来のメイン顧客すら惹き付けるようになり、最後にはパイオニアがカラオケ機器業界からの撤退を余儀なくされたことなどが、余すことなく描かれている。
私は、「破壊的イノベーションなんてしょせんはHDDのような中間製品にだけ当てはまる話だ」、「アメリカと違って日本では破壊的イノベーションで業界構造がひっくり返ってしまうことなんか無い」と思い込んでいたのだが、このテキストを読んでそれが全くの間違いであることを知った。それだけではなく、クリステンセンの主張の奥深さ、凄みを初めて理解することができ、日本企業の多くが韓国や台湾、中国の企業にやられてしまったのも、実は破壊的イノベーションだったのではないか、現時点では既に市場からの退出を迫られる「詰み」の一手前のステージまで追い詰められているのではないかと、背筋が寒くなった。
とにかく、イノベーション・マネジメントの全体像を理解するためのテキストとしてだけでなく、手軽なビジネス書としても楽しめる、本当にスゴイ本だと思う。この著者たちの次回作に期待します。