稀代の読書家でもあったヘンリー・ミラーは、著書『わが読書』巻末の
「最も影響を受けた100冊」リストに、『ゲーテとの対話』を挙げている。
(でもゲーテの作品はない)
この作品は、世界文学の中で最も有名な本のひとつであり、
目についてとにかく買っておいたという人も多いだろう。
自分もそうだった。長い間、この本は手元にあったが、読み進めることができなかった。
それができるようになったのは、50歳間近の時。
ゲーテ晩年の頃の対話なだけに、人生の後半にはっきり入った頃の方がしっくりくる。
最初は飛ばして、いきなり本文を読もうとしていたが、
この本の冒頭には、エッカーマン自身についての文章が掲載されていて、それが面白く読めた。
あらゆる経験をしてきたようなゲーテのそばに、10年間も居続けられた人とは、どういう人物なのか。
ひとことでいうと、エッカーマンはとても苦労して成長してきた人。
文化や理論の中で育ってきたのではなく、労苦と人波の中にもまれてきた人だった。
だからこそゲーテとも長年交流し、その記録をつぶさに残せた。
ここを飛ばしては、エッカーマンの「ゲーテの世界」には入っていけない。
山下肇さんのやわらかく、こなれた訳文も魅力的。