ゲド戦記三部作と言われていたシリーズに16年ぶりに続いた第四部。
この間の現実世界の変化、そしておそらくはル・グウィンの中での変化が作品にも現れたのであろうか。アースシーの世界の均衡のほころびと乱れは第三部でも描かれていたが、この作品では魔法を捨て普通の女となったテナーの視点を通してアースシーの現実をまざまざと突きつけられた。アースシーは憧れの魔法世界としてではなく、人間の生きる世界として、生活感の溢れた世界として描かれている。そして、もはやかつての大賢人ゲドはそこにはいない。
この作品からアースシーの世界観は変化した。私自身、この作品の重さに戸惑いもした。だが、今までのゲドの魅力が失われるわけでもなく、アースシーへの理解に深みが増したように思う。
生きることの苦しみ、悲しみ、喜び。魔法だけではないアースシーの描写は、むしろ現実世界にいる自分とアースシーとが、決して縁遠いものではないのだと感じさせてくれる。
相変わらずル・グウィンの描写は巧みであり、また清水氏の日本語訳も美しい。世界の変化に少し戸惑うかも知れないが、繰り返し読んでみていただきたい。アースシーが失われたわけではないことを理解していただけると思う。