クドカンは、1番好きな黒澤明監督作品は「どですかでん」だと言っている。あの社会の底辺に生きる奇怪な人たちのたくましさと弱さを描いた、黒澤映画の中ではおそらくもっとも不人気な映画。
そのクドカンらしい感性が息づく映画だ。昭和30年代が舞台なのに、現代の風景が映りこむ等、異色の映画であり、万人が楽しめる映画ではない。
しかし、めしを喰らい、ひたすらペンを動かし、笑うしかない壮絶な貧乏生活は不思議なリアルさがあり、かつ水木しげるのキャラクターをよく捉えている。クドカンの方がTVの向井理より実際の水木しげるに近いはずだ。
こ んな貧乏人とは知らず結婚した妻役の吹石一恵は、最初は戸惑いを隠せないが、夫の才能と努力を信じ、「ゲゲゲの女房」が板につくようになる、微妙な距離感 の変化を好演している。そういう意味で結婚写真の撮影で、両人がすこしずつ近づく場面が本作の話の流れを象徴している。
映画中のアニメの挿入は面白い。妖怪の登場も、目に見えないものを実在させるのだからどうやっても違和感はぬぐえないだろう。
確信犯的に無愛想で空虚な、寒い映画。でもその底にある、開き直った貧乏人の強さと徐々に形成される家庭の温かさを感じるべき作品だ。