タイム・トラベル小説の素敵な魔法使い、ジャック・フィニイ。タイムトラベルとロマンスをブレンドさせた多くの作品のなかでも、本短篇集に収められている「愛の手紙」と、ロバート・F・ヤングの短篇「たんぽぽ娘」の二篇は殊に忘れられない。
三年前の1957年に刊行された著者の短篇集『レベル3』が異世界とのコンタクトをスリリングに、スリラー風のタッチで描いていたのに比べて、『ゲイルズバーグの春を愛す』(1960年刊行。それにしても、なんて素敵なタイトルなんだろう)では、時のかなたへと旅立ち、溶け込んでいく人たちの姿が、これ以上ないというくらいあたたかく描かれている。「ノスタルジックに過ぎる」「単なる逃避でしかないよ」と嫌う方もいらっしゃるだろうけれど、わたしはそこが素敵だと思う。過去への憧れを、タイム・トラベルというロケットに乗せて打ち上げる作者の思いが、この宝石箱のような短篇集の中で輝いているような気がして仕方がない。
収められた10の短篇のなかでも、「クルーエット夫妻の家」「大胆不敵な気球乗り」「愛の手紙」が好きですね。
内田善美さんの手になるカバーの絵もいいですねぇ。氏の“ゲイルズバーグ・ストーリー”、四つの作品を収めた漫画『かすみ草にゆれる汽車』も、機会がありましたらぜひ!