ケンブリッジ大学ペンブルク学寮に住みついた若い雌猫(トマス・グレイと名づけられる)は、人間たちは気
づいていないのだが、学寮内を探索したり学者たちの会話を聞いたりして思索する猫なのである。
トマス・グレイと深い親交を結ぶことになったのは大学の特別研究員のルーカス・ファイスト博士で、世俗的
なものに背を向けた、純粋で心やさしい人物である。このふたりを中心にファンタジックな物語が展開する。
格調高く盛大に催された晩餐会が、トマス・グレイが生んだ子猫の処遇を決めるためのものだったり、猫なら
誰もがよくやる行動をとった結果トマス・グレイはファイスト博士に大きなヒントを与えることになり、博士
はその成果を「共同研究」として発表したり…。ただ楽しい、可愛らしいというのではなく、ディテールが生
き生きと描かれ、また、学問上のさまざまな論争や考察などがたくさん盛りこまれているため、ユーモラスで
いてとても知的な世界になっている。
作者は数学者らしいのだが、詩にも詳しいようで、猫関連の詩や詩人が作中に散りばめられている。中でも、
聖書研究に励んでいた無名の修道士が残した詩(ネズミ捕りに精出すパングル・ボーンという名の猫が出てく
る)についての考察は興味深かった。