語りは騙り。ジーン・ウルフは巧妙な騙り手だ。思わず舌をまく騙りのワザはふたつある。ひとつは、人間になりすますことのできる異星人を設定したこと。異星人が人間を騙ることが可能な世界では、「私が人間であること」や「私が私であること」の確実性は揺らいでくる。本書は、このような設定の中で、語り口のまったく違う3つの物語が物語られるのだが、ここで「物語を語るうえで客観的な時間を明示しない」という第2の騙りのワザをかけることで、「私」の起源(私はいつ生まれたのか? ニュートン時間で?)はよりいっそう曖昧となってくる。「私とはいったい何者なのか?」――こうして、また、私は本書を本棚から引き出すだろう、何度も、何度も。傑作だ。