《30年代の「世界恐慌」。その原因や対処法をめぐりケインズとハイエクは論争を繰り返した。リーマンショック後の「世界的経済危機」の核心を探るため、経済学史に偉大な足跡を残した知の巨人の共通認識と対立点を徹底比較する》
この内容紹介に惹かれ、本書を買った。
長引く平成不況、曲り角に立つグローバル資本主義、ギリシャ危機、そしてTPP問題……等々を考えるうえで、何かヒントがあるのではないかと思ったからだ。
結論からいえば、それは私の勝手な思い込みであった。
ひと言でいえば、本書はケインズとハイエクを対比させながら、両者の経済および社会理論を概説した<教科書>のようなものである。
したがって、私はこの本を、はるか昔の経済学部時代にもどって、ねじり鉢巻きで読むしかなかった(それほど硬い本です、これは)。
<第一部>第一章は、ふたりの対比略伝で、「交友と衝突」というタイトルが付されている。
<第二部>第二章は、金利政策によって物価の安定を図ろうとするケインズにたいして、ハイエクは物価水準を安定させても景気変動は不可避だとする。
・第三章は、そうしたハイエクのケインズ『貨幣論』批判。
・第四章は、『一般理論』にいたるまでのケインズ経済学の概説と、ハイエクの「秩序を生み出す<市場>」という考え方をまとめる。
<第三部>第五章は、ハイエクの「法の下の自由」という思想と、ケインズの「自由を脅かす不確実性」という考え方を対比させる。
・第六章は、国際通貨に着目するケインズと、通貨発行を民営化するというハイエクの過激な論の紹介。
・第七章は、<慣行>をめぐる両者の対比。ハイエクがそこから<自生的秩序>が生まれるとするのにたいし、ケインズは逆に<流動性のワナ>に陥る恐れがあるとする。
・第八章は、保守主義をめぐる両者の微妙な差について。
・そして最終章の第九章では、ハイエクの自由論は<平時の論>、ケインズのそれは<危機の論>と結論する。
たしかに、ケインズおよびハイエクの経済学や思想を整理するうえでは勉強になったが、しかし、本書を通じて、テクニカル・タームに注解が少ないので、とまどう読者も多いのではないだろうか。
「カタラクシー」「交渉民主主義」「時と所についての特定の状況にかんする知識」……といった言葉が説明抜きで飛び出してくる。
また、つぎのような文章はどうか?
《目的へ向けての「〜せよ」ではなく手段について「〜してはならない」という禁止の形で普遍的な行動ルールを構成して保護領域の境界線を定めれば……》(第五章、193ページ)
この背後には、たとえば――「右折禁止」「一方通行」といった交通法規は守らなければならないが、どこへ行くかは各人の自由という自由主義の社会と、「〜へ行け」「〜をしろ」と強要する統制社会との違いを見すえたハイエクの思想が控えているわけだが、そのあたりの注解はあまり明確ではない。