この本は、ミステリーの名を借りた哲学書でもあり、哲学書の名を借りた歴史ミステリーでもある。
オスロフという狂言師により、稀代の神秘主義者「グルジェフ」の思想が浮かび上がってくる。しかも、自分にとっては謎であった同時代の神秘主義者「ウスペンスキー」との関係も露わになっている。また、スターリンとの関係も明かされ、歴史的な背景も無理の無い説明がなされている。もちろん、これらの「事実関係」が必ずしも正しいと証明されているわけではないが、そこはあくまでも小説であり「本格ミステリー」なのである。
グルジェフ、あるいはウスペンスキーを知らない方々には、彼らの思想は理解し難いと思うので、本著を読んでも「ミステリー」としては物足りない作品となってしまうだろう。しかし、本著にもでてくるハートマンとグルジェフとの共作によるピアノ曲や演奏が実際に残されており、多くのアーティストに影響を与えている。著名なところでは、東京駅や帝国ホテルを設計した「フランク・ロイド・ライト」や、映画監督「ピーター・ブルック」、ジャズピアニスト「キース・ジャレット」、キング・クリムゾン「ロバート・フリップ」などがいる。
神秘主義ということで敬遠する方も多く、哲学書では手が出せないと思うが、この本著では判り易く語られていて簡単に読めるので入門書として最適である。
自分は決して信奉者ではないが、その思想は自分の生活に多大な影響を与えてくれた。日々の弛んだ生活や精神に大きな警鐘を鳴らしてくれる。是非一読して欲しい。