ヨーロッパでは、1630年代にイタリアのパジーレが蒐集した童話集「ペンタメローネ」、1697にフランスのペローが集めた「ペロー童話集」、19世紀になってドイツのグリム兄弟が集めた「子供と家庭のためのメルヘン集」(グリム童話)などが、口伝えで伝承されてきた童話を収集し文字化した代表的童話集だそうです。本書はとりわけグリムを中心にして、シンデレラ・いばら姫・ホレおばさん・白雪姫・ラプンツェル・蛙の王様などを取り上げ、それらの童話で何が本当に語られているのかを、歴史的民俗的に探っています。
キリスト教信仰がヨーロッパ文化では絶対的に思えます。しかし、童話の本当の意味を探っていくと、彼等の無意識や深層に、農耕民族や狩猟民族特有の神話的風習が残っていることが分かるそうです。考察は、童話だけでなく農耕や狩猟が全てだった時代の古い祭りや崇敬の対象にまで及び、童話解釈の確かな傍証にされています。
「シンデレラ」が美と醜とを変遷するのは、季節が変遷することに対応しているそうです。また「いばら姫」には、この世からあの世を経て、再びこの世にという童話の基本構造が見られるそうです。さらに太古の神々が出てくるような神話的な「ホレおばさん」、童話の主題の重要なモチーフである愛の賛歌が表された「白雪姫」、人は醜さがありながら、愛の力で救済されるという愛の救済を主題にした「ラプンツェル」、動物と人との深い親和性を表した「蛙の王様」など、それぞれの解釈は、強引ではなく、どれも面白く新鮮です。
著者は、ヨーロッパ人の奧底には、我々と変わらない自然崇拝の心、多神教・汎神論に通ずるものがあることを知って欲しかったのだそうです。その目論見は本書で十分に達成されているように思えます。