レビュータイトルに使った“栄光なき天才たち”は、1980年代後半に「ヤングジャンプ」に掲載された作品のタイトルである。この、マンガ偉人伝の第1回で取り上げられたのが、本書のもう一人の主役イライシャ・グレイであり、電話の発明に関する特許出願のことであった。それを読むまで、私はグレイの存在を知らなかった。そして、本書を読むまで、グレイを「時間差」に泣いた人だと思ってきた。
なお、「たち」という複数形をそのまま使ったのは、本書で明らかにされるように、グレイ以外にもあまり知られることのない電話にかかわる発明家、そしてベルとグレイの“物語”を研究した人々を含めるからである。
著者は、当初はベルとエジソンについて調べるつもりで、ベルが残したノートをオンラインで調べ始める。そこで、特許出願前後のベルの行動に不信を感じ、グレイがほぼ同時に出した特許出願書類を調べる始める。驚いたことにそこには、ベルのノートに書かれた図面と同じものをあった。どうして、ほぼ同じ図面が書かれているのか? 著者はエジソンを傍らに置いて、今までの研究成果にとらわれることなく、電話の発明、そしてベルという人物を追い始める…
最初に見出されたのは、決定的とも言える証拠の一つだが、それだけですべてを説明できない。そこで、ベルの生涯、そして伴侶となったメイベルをめぐるエピソード、電話の発明史を丁寧に調べ、明らかにしている。また、ベルとグレイの法的な争いを改めて掘り起こし、忘れ去らている当時の論争も紹介している。さらに、電話の原型を作り上げたといっても過言ではないフィリップ・ライスについてかなり詳しく描かれている。なお、歴史研究の方法論などについても、様々なことが理解できた。
極めてスリリングで、最後まで飽きることなく読むことができた。
ただ、終盤部分では、ベルにある種の“悲しさ”を感じてしまう。
功なり名を遂げ、最愛の伴侶を得ていたが、本心はどうだったのだろうか?