グノーシズムはローマ帝国の盛期、2、3世紀に現れた世界の成り立ちを捉えんとする神学的営みである。後にはキリスト教正統派から退けられ、弾圧も受けた。そのためグノーシズムに関する記録もあまり残ってはいないらしい。幾つかの断片的文書から実態に迫るしかないのが現状だ。そうして浮上してきたグノーシズム像は、一見、荒唐無稽な神話を繰り広げているように見える。しかし、その思弁は以外と知的で、著者はラカンの心理学を引き合いに出している。さらに、グノーシズムにはプラトニズムが大きく影を落とし、そのため虚無的に捉えられていた。世界の原点自体が、疎外された虚像になっていると著者は指摘する。ニヒリズムを抱えつつ、神を目指す思想は、迫害を受けなくとも行き詰まっていたのかも知れない。