「グノーシス主義」とは何か、という問題は非常に難しいです。入門書としては、多分、スコペロの「グノーシスとはなにか」が分かりやすく、現時点で入手できる良質な本でしょう。しかし、スコペロの本でも、なお読者に誤解の起こる余地が多々あります。岩波から出ている『ナグ・ハマディ文書』を自分で読んだ場合にも、個人的な誤読・誤解が出てくるはずです。グノーシスを的確に理解するには、「グノーシス主義的現存在姿勢」という「実存のありよう」を了解する必要があります。このような「現存在姿勢」が、グノーシスの「創作神話」を生み出すのであり、その所産が、つまり、『ナグ・ハマディ文書』 の様々な文学神話であったり、福音書であったり、釈義書であるのです。従って、文書となっている神話を通して読むことで、グノーシス主義を理解しようとすると、誤解に陥ります。大貫氏のこの本は、特定教派のグノーシス神話を辿って、そこからグノーシスの解説をするのではなく、グノーシス主義の本質的構成要素とも言える、「実存の神話素」を、「トポス(場所・場面)」という形で、原形的に、この神話素を、具体的なテクストを例示することで肉付けし、全体として、「グノーシス的現存在姿勢」とは何かについて、理解を深めるように構成されています。マンダ教についての説明も、マニ教についてのそれも、また現代社会との関連になるとは言え、非常に優れたグノーシス主義入門書です。わたしは、ある程度の知識を持つ人が、より精密なグノーシス理解を得るための導入書として、この本を高く評価し推薦します。