遺作でタイトルが「グッド・バイ」となると、どうしても「この世のみなさん、グッド・バイ」と思いがちですが、そうではなく、この作品はある男が付き合ってた十人の女と一人ずつ「グッド・バイ」していく話なのです。一説によると、太宰は昭和23年6月の段階では自殺する気などなかったとされています。太宰は不倫相手の山崎富栄と別れたくて心中をわざと失敗して気まずい空気を作ることで別れようとしたけど、山崎富栄が「しっかりした人」だったために心中が成功してしまった(おかしな言い方ですが)というのです。その根拠として、死にに行ったはずなのに「グッド・バイ」の続きを書く気まんまんだったということ、そしてこの「グッド・バイ」で最初に主人公が別れる女性が心中相手の山崎富栄そっくりな人物であることなどが挙げられているのです。このようにいわくつきの作品なのですが、太宰としては「パンドラの匣」以来二年ぶりの明るい小説で、文体にも戦前の明るい作品に見られたテンポの良さが復活し、自殺のために未完に終ったことが悔やまれるほどの素晴らしい仕上がりになっています。また、この作品集には「グッド・バイ」の他に「男女同権」「十五年間」など太宰の戦後観を知る上で重要な15の短編が収められています。