「ますむらひろし、宮沢賢治を描く」シリーズ第3段。今回の対象は「グスコーブドリの伝記」。ブドリは賢治自身を投影したもので、自らの事ではなく、貧しい農民の事を考え研究に努め、最後は究極の自己犠牲に至る姿を、ますむらは「アタゴール」の住人の姿(猫)を借りて、牧歌的で感動的な物語に仕上げている。
飢饉で苦しむ東北の農民達。そんな苦しみを救うため、農業・科学の研究に努め事態を改善しようとするブドリ。賢治の特徴でもあるが、ブドリも実践を大事にする。そんな努力が実を結びつつある所へ、運命のイタズラで火山の爆発場所を変えるためにブドリは究極の自己犠牲の行動を取る。賢治の実践を伴った自己献身の姿が、ますむらのファンタジー溢れる描画と相まって、読むものに深い感動を与える。
同時収録の「猫の事務所」における狭い人間関係の中での人の身勝手な思惑への風刺、「どんぐりと山猫」の賢治らしい童話における、トボケタどんぐりや颯爽としていながら何処かオカシイ山猫の様子、そして本当の意味が謎に包まれた全体構成がますむらの絵とベスト・マッチで一風変った味わいを与えてくれる。
賢治の作品の登場人物を猫にする違和感は全く無く、逆にこうする事によって賢治のファンタジーとますむらのファンタジーが相乗効果をあげて、本作を幻想的でありながら感動的なものにしている。子供から大人に至るまで読んで欲しい、楽しみながら深い感動が味わえる傑作。