読み始めて最初の数ページで面白いと予感させる小説には中々出逢えない。そして、本谷有希子の新作は、嬉しい事に、北陸のある家族の暮らしぶりの歴史が語られる冒頭を読むだけで、傑作と確信させる幸福な1冊である。
なんて、堅い口調で始めたけど、とにかくスゴク面白い。父、母、姉妹の4人家族の日常の描写から始まり、女性3人でグアム旅行、「珍道中」にすらなり得ないショボさとバッド・タイミングさが滑稽ながらも哀感を誘う。
決して、取り立ててドラマチックでも奇天烈でもない(ちょっと変わっているけど、、、)平凡な家族の小市民的な思考、焦燥、嫉妬、悪意、行動をデフォルメ的に膨らませて、ここまでオカシク書ける才気!劇作家だけに、些細な仕草、小道具への観察眼、洞察力、ユーモアのセンスは相変わらずだし、実に上手い。姉が学生時代にバイトしたピアノバーの敷布のフェルトの扱いひとつ取っても可笑しいし、グアムに旅立つ直前の母と姉の漫才のごとく続けられる掛け合い、ペットボトルを巡るリスクとリターンのくだりでは、思わず椅子からひっくり返った(笑)。
全編クスクス笑いながら読み切ったが、姉妹の積年の思い爆発の心情吐露の先に見える一筋の光明。しょせん、家族は家族、その関係を解体したり、断ち切る事は出来ない。もとの日常、生活に戻っても、ちょっとばかり気持ちを切り替えていけば、人生、少しは生き易くなる。
いつもながらの、筆者流の、逆説的な"人間賛歌(観察)"を思う。