少し変なタイトルの本ですが、サブタイトル「貧困・教育・独裁を解決するソーシャル・キュア」のほうが本書の内容を良く表していると思います。
いかなるコミュニティーにも、個人をそのコミュニティーのルールに従わせようとする「同調圧力」と呼べるものがあって、そこには大きな教育効果(そして息苦しさ)があるということは、個人的にも長いこと考えてきました。
本書は、そうした同調圧力(本書の言葉では「ピア・プレッシャー」)のコンテンツに影響を与えることで、人間のコミュニティーに対して、スケールの大きな教育効果を狙うという壮大な試み(または実例)の記録です。マーケティングという文脈で読むことも可能ですが、やはり教育関係者にこそ読んでいただきたい本だと思います。
・本書では、独創的な方法で問題解決に成功した人たちのストーリーを紹介していくが、いずれも人びとが何よりも手に入れたいと願うものを提供することが問題解決のきっかけとなった。それほど大切なものとは、仲間(ピア)からの尊敬である。(p17)
・ソーシャル・キュアが最終的に目指すのは、社会変革力に対する認識の修正である。人間を動かす最高のモチベーション―仲間との絆に対する願望―に基づいた新たな戦略を世に送り出し、社会変革力のひとつとして認知させることである。(p23)
・ソーシャル・キュアが必要なのは、私たち人間があきれるほど理性を欠いた生き物だからである。自分に有益な行動もとれないのだから、実にふがいない。いったんこうと決めたら最後、どんなに情報を提供されても翻意しない。そのうえ自分の行動を正当化する理由をつぎつぎと列挙していく。(p49)
・将来的に役立つ行動を選ぶべきなのに、そんな理性を奪ってしまう要因がもうひとつある。それはなかで暮らしているとなかなか見えにくいもの、そう、文化である。(中略)行動を集団に合わせたくなるのは、人間の基本的な衝動なのである。(p62)
・ファーストフードの世界では、広告代理店はいちはやくブランドを創造する。これは商業の世界ではごく当たり前の行動だが、社会活動においてブランディングはほとんど顧みられなかった。しかし人々に行動を変えてもらうための運動ならば、まずブランドを考え
るべきだ。(p130)
色々と興味深い事例が次々と紹介されるのですが、個人的に最も考えさせられたのは「ステレオタイプ脅威」というものでした。少し長くなりますが、以下にその一部を引用します。
・このとき実験の対象に選ばれたのはアジア系の女子学生。つまり、数学が得意なアジア系学生というステレオタイプと、数学が苦手な女子学生というステレオタイプのふたつを併せ持つグループである。テストは三種類のアンケートのいずれかに書き込んでから行われた。性別に関するもの、人種的なアイデンティティに関するもの、そのどちらでもないものの三つである。そしてどのアンケートでもステレオタイプや数学の成績については触れなかったが、テストの結果は見事に分かれた。自分はアジア系だという自覚が刺激された学生が最も成績がよく、女性だという自覚を強めた学生が最も悪い成績だった。どちらでもない中立的なアンケートに書き込んだ学生はの成績は、その中間である。(p164)
人間の幸せにとって、仲間とのグループ活動がいかに大切なものなのか、今更ながら理解させられます。また、自分で決めているように思える行動の多くが、実際にはピア・プレッシャーに大きく影響を受けているものなのか、再確認させられます。そして、こうしたピア・プレッシャーを少しでも上手くコントロールすることができれば・・・。
本書は、豊富な事例を追いかけつつ、その背景に共通するものを慎重に探って行くように書かれているため、490ページという大著で、かつ3,000円と高額です。個人的にはオススメの1冊ではありますが、まずは図書館や書店で手に取ってみてから、購入を考えたほうがよいかもしれません。