社会学理論を17人の伝記付で広く浅く紹介した、あるようでなかった構成の社会学入門。
現代において有効だとされる社会学理論は、あまりに多岐に渡っている。またそれぞれの理論にも一長一短があり、「これが一番いい」とは一概に言えない。このような状況下で「リファレンス」を事前にさらっておき、自分の社会学的な方法論を選ぶための「価値基準」を構築しておくことは、方法的に適当だと思われがちな社会学研究において、とても大事なことである。
この『クロニクル社会学』は、一見「受験参考書」的な雰囲気を持っているけれども、主要な文献データや研究者ごとの思想の概略についてはちゃんと手堅くまとめてあり、真面目に社会学理論を学ぶ際にも十分対応できるつくりになっている。特に「原典に直接あたるしかない」とずっと思い込んで生きてきた私のような人間にとっては、はじめから順番に読んでいっても問題なく読み進められるのはありがたい。下手に難しい社会学理論テキストを買うよりは、これで自分の知識を頭の中で再配置する方が断然お得である。重くはないが、けっして内容的に薄くもない。うまい具合に力が抜けていると思う。
ただ、この本を読んでいて強く感じたことは、「社会学の思想史的位置づけを正しく把握するためには、先行する経済・政治思想──たとえば功利主義や古典派経済学の理論をしっかりとおさえておく必要がある」ということだった。ホッブズ、アダム=スミス、ベンサム、ミル、スペンサーなどの思想を事前に知らなければ、デュルケムやウェーバー、マルクスらが抱えていた問題意識を把握することは難しい。
そういった意味合いで、この本だけで「社会学」の全体像を捉えることは無理な話である。しかし、その責任はこの本にはなく、むしろ「社会学」という学問が持つ本質的に微妙な立ち位置にあるのだと私は思う。
「広く浅く」の感覚の大事さを思い出させてくれる一冊だ。