クロスゲーム第九巻。二年生ではあるものの光たちにとって始めての夏の甲子園地区予選が始まる。
あだち充のマンガは、実力や才能についてはきわめてドライである。ためしに今までの作品を振り返ってみても、
「猛特訓の成果!」や「努力が才能に勝った!」という筋書きはあまりない。
あだちの描く才能は、もって生まれたものですでに量が決まったものである。そこのリアリティーは他のスポ魂
マンガよりも上だ。彼が描くスポーツは、何千もの努力をもってしても超えられない才能があるということを教
えてくれる。
この九巻では四人の男を通して、才能という問題がより鮮明に描き出されている。
自分の才能に自信があるという次元を通り越して、その才能をものさしに人さえも秤にかける東雄平。
底知れぬ才能を開花させたものの、東とは反対に自分の才能にひどく疎い光(因みにモテることも才能であり、
光と青葉は自分のモテるという才能にあまりにも無自覚、もったいない!)。
後輩の才能をそこの見えない穴のように恐れながらも、自分の才能の敗北を否認し続ける竜旺の4番志摩野。
そしてその志摩野に邪魔者扱いされながらも、彼の才能を「高校生まで」とあっさり見切りをつけ達観して
自分の番を待っている後輩、三島敬太郎。
残念ながら志摩野の不安は的中するのだろう。
真の才能を持ち主は、他の才能の持ち主を怖がり遠ざけたりはしない。むしろ才の持ち主は、相手の才能の大きさ
を察知するやいなや、互いに惹かれあうものなのである。彼らは余りある自分の才能がいったいどれほどのものか
を計りたくてうずうずしている。今までそのものさしとなってくれる自分以上の才能と出会ったことがないのだから。
三島は光と東という2人の規格外の才能を感知している。
光のピッチングと東のバッティングという強大な才能を目のあたりにして、ベンチを温めていた三島もその
「自分の才能を計りたい」という欲求を抑えきれなくなりつつある第九巻。