今まで何度もノミネートされながらなかなかオスカーに手が届かなかったジェフ・ブリッジスが、ついに本作でアカデミー主演男優賞を受賞した。落ちぶれたカントリー歌手を吹き替えなしで演じたブリッジス、本作のために作曲された『The Weary kind』を哀愁たっぷりに歌い上げている。
バッド・ブレイク(ジェフ・ブリッジス)は知る人ぞ知る大物カントリー歌手、いつしかアルコールに溺れ作曲業からも遠のいていた。仕事といえば、地方のボーリング場や場末のバーをまわって往年の名曲を披露する地方巡業だけ。ほぼ一文なし状態のブレイクがサンタフェを訪れた時、シングルマザーの新聞記者ジーン(マギー・ギレンホール)と知り合うのだが・・・・・・
アルコール中毒の自堕落男を演じるために、ジェフ・ブリッジスが実に細かいアドリブをかましている。車から降りたバッドがペットボトルにたまった小便を駐車場に撒き散らしたり、演奏中気持ち悪くなって外に出たバッドが嘔吐物とともに落としたサングラスをゴミ箱の中から拾い上げたり、放尿するためにベルトをはずしたまま電話をかけたり・・・・・・
汗染みで汚れたカントリーシャツの他にも、(『真夜中のカーボーイ』のホフマンのように)爪アカや穴の開いた靴下等でさらなる演出してほしかったとは思うが、落ちぶれ描写はほぼ合格点といえるだろう。酒臭い息がスクリーンから匂ってきそうな体はややたるみ加減が足りなかったとは思うが、愛弟子(コリン・ファレル)にその座を奪われた男の情けない生活ぶりは十二分に伝わってきた。
この映画のバッドを、ミッキー・ロークが演じた『レスラー』の主人公と重ねる人も多いようだが、かたやアーティストとしても活躍中の名優、かたや酒と薬物で人生を台無しにしかけた男では、同じようなキャラクターを演じるにあたっても、かなりの温度差があったのではないだろうか。
Tボーン・バーネットがプロデュースした音楽ももちろんすばらしいのだが、金持ちの優しいパパ役が一番似合いそうな俳優が、この『疲れきった男(退屈な独身男はないんじゃない?)』を演じて観客の感動を呼ぶには、やはり相当の役作りが必要だったと思うのである。