随分前になるんだけど、図書館で借りてとても面白かったミステリ短篇のアンソロジーに、石川喬司が編んだ『37の短篇』(早川書房の『世界ミステリ全集 18』)いうのがありました。ハリイ・ケメルマンの「九マイルは遠すぎる」、ロイ・ヴィカーズの「百万に一つの偶然」、デイヴィッド・イーリイの「ヨット・クラブ」、リース・デイヴィスの「選ばれた者」、クリスチアナ・ブランドの「ジェミニイ・クリケット事件」など、本当にわくわくさせてくれるミステリ短篇がたくさん収録されていて忘れ難いのですが、その37の短篇のひとつに、ジャック・リッチーの「クライム・マシン」(丸本聡明訳)があったんだなあ。いま、森英俊・編の分厚い一冊、『世界ミステリ作家事典 本格派篇』(国書刊行会)の頁をめくっていたところが、「クライム・マシン」ジャック・リッチーの名前にぶつかり、「あっ!」となったところ。だから確かに一度は読んでいるはずなのですが、どういう話だったか、すっかり忘れていたのですね。今回、本文庫で読んでみて、「おーっ! これはひねりの利いた、なんとも洒落たミステリじゃないか」ってね、とっても楽しめましたです。
本書に収められたジャック・リッチーの十四の短篇。読んでいる間は、極上のひととき。時の経つのも忘れて読み耽っていたはずなのですが、読み終えて二、三日経った今、印象的な短篇のあらましを書いてみようとして、もういっぺん読み返さないと、それができないことに気づいて愕然とした次第。表題作「クライム・マシン」をはじめ、「エミリーがいない」「縛り首の木」「デヴローの怪物」など、すごく面白かったって記憶は確かに残っているのですが、ただそれだけ。あんまり口当たり良く、ひょいひょいと読んでいける味わいのせいかなあ。あんなに楽しめたのに、これほど見事に記憶から飛んでしまっているなんて、ほんと、不思議です。これぞ、ジャック・リッチーの記憶消去マジックの妙、なんてね(わはは)
ひねりの利いたミステリ短篇ならではの妙。軽快なテンポの筆致。尾を引かない口当たりの良さ。ちょっとした空き時間、待ち合わせの時間などにおすすめの、さらっと楽しめる一冊。