一冊で、さまざまなことを教えてくれる本だ。ハウツー本と見紛うタイトルは、アイキャッチにすぎない。もちろん、山でクマにあったときの対処に充分すぎるほどの知識は得られるのだが、それは実はこの本の主題ではない気がした。アイヌ民族として狩りをする“最後のマタギ”だった姉崎氏の人生、自然に対して・生き物に対しての姿勢は、山という他者のテリトリーに人間が踏み込む際の礼儀や、ありきたりなヒューマニズムで片づけるべきではない“真の共生”を考える上で多くのヒントをくれる。それが、決して表面的な教訓に終わっていないのは、聞き書きという手法によるものだろう。飾らないざっくりとした姉崎氏の語り口に「何かを教えてやろう」的な説教臭さはまったくない。あるのは、65年間ひたすら“生きるため、食べるため”に狩りをしてきた彼の、「クマと山に関する知識なら誰にも負けない」という見上げるばかりの自信、矜持のみだ。アイヌ民族の風習や生活描写も詳しく記されており、文献としても評価できる。山歩きをする人、クマの生態について学びたい人にも役に立つだろう。しかし、そうした目的がない人にも面白く読め、ためになる。思いがけない掘り出しものだった。