不思議な容貌の人物が何か深遠な真理について語っている…といった
持ち上げられ方をしているが、私はどうもこの著者を好きになれない。
本書に関しては細部にわたって苦情を述べたいけど、大きくまとめて三点。
問題1、物質であるにすぎない脳から、我々の持つ生き生きとした質感(クオリア)が、
いかにして生じてくるのかという主題については何一つ解決していないということ。
難問を難問と認定して終わっている。小冊子で扱うにはあまりにも大きい問題であるとはいえ、
著者の文体が「今にも解明できますよ」と言わんばかりなので、
最後まで付き合って肩透かしを食らった読者は多いだろう。
問題2、学説の紹介の仕方があまりに下手であること。たとえば「supervenience」(重生起)というデヴィドソンの概念について、
【二つの属性(脳の状態とクオリア)が「ぴったり寄り添った」ものとして、関連性を持っている感じがある】
という説明を与えているが、「感じがある」というあいまいな言い方ではそれが
学説固有の主張なのか茂木の単なる妄想でしかないのかわからない。
そもそも当該箇所を読んでも、「supervenience」とその対概念である「対応関係」説との
致命的な差異がはっきりしない。万事がこの調子で進むのである。
問題3、『クオリア入門』という、あからさまにミスリーディングを誘うタイトル。
タイトルだけ見てこれは入門書であると思った人が多いだろう(私もです)。
実際には茂木自身がクオリア問題に入門したことの宣言に過ぎない。
他のレビュアーが指摘しているとおり、明確な定義すらないまま論述が始まる本書は、
入門書としては不適切です。
そもそもクオリアは哲学の分野で論じ始められた問題なので、
初心者はまずそちらで文献を探したほうがいいだろう。その上で科学的アプローチもあるのかな、
と思ったらこちらにも手を伸ばしてみるといいかもしれない。