森達也『クォン・デ―もう一人のラスト・エンペラー』角川文庫
ベトナムの王子は、東京の片隅で、誰にも知られず息絶えた。ぼくの全く知らなかった歴史物語が、この本では語られてます。ひどく面白い本です。これまでの森さんの作品とは少し雰囲気が違うけど、ところどころで強く感じられる森さんの息遣いは、やはり森さんのものです。ただの歴史書でもなく、小説でもなく。それにしても、とぼくはつくづく思う(森さん風)、国家とはなんなのか、国家独立という夢は家族よりも重いものなのか、国家と国家のあいだで翻弄される人々のなんと多いことか。王とはなにか。ひとびとの希望とはなにか。どれほど多くの物語が、歴史のなかで消えていったのか、と。
時間が行ったり来たり。最後に森さんの思惑ががっつりと覆されるのが、またおもしろい。たんなる学者だったらこんな風には書けない。
森さんには、こういう仕事も期待してしまう。がんばって下さい。