まずは、凄まじい程の文献の博捜(著者が実際に当たった第一次文献のリストを見るだけで、溜息が漏れる!)、互いに矛盾し、錯綜する膨大な資料の校合と考証(引かれている膨大な資料は、しばしば文化的背景が、価値観が、思想信条が異なり、利害が対立し、あるいは記憶違い、あるいは情報の精度が異なり、云々といった事情により、それこそ目が眩むほど互いに噛み合わない!)が、圧倒的。気が遠くなるような資料を噛み砕き、ここまで鮮やかに整理してみせる力量は、とてつもない。しかしながら、もっと凄いのがこれら資料の読み込みと熟考。文字通り、資料を通じて中世末期から近代の始まりにかけての、我々とは全く違う意識のもとに生きていた様々な人々の人物像が、血の通ったものとして、生き生きとよみがえる。そして、これら一人一人の人物の希望、情熱、絶望が、同時に巨大な変革期にある世界史の非情な転換の中に、ダイレクトに位置づけられる! 著者の思索は、こうした近代世界との衝突の中に投げ込まれた人々に共感しつつ、今日の我々自身の自画像に到達する。歴史とは何か、歴史を思索するとはいかなることか、そして我々は一体何者なのか? こうした実存的な思索は物凄い、の一言! 惜しくも先日亡くなった著者の、運命的といって良い著作!