先日読んだ同じ著者の『私のギリシャ神話』(集英社文庫)と比べて、神話の物語として、より面白かったのは本書のほうですね。重複する部分も多いのですが、集英社文庫のビジュアル版に比べて特に面白味を感じたのは、次の二点。まず、ホメロスの物語に導かれてトロイアの遺跡を発掘したハインリッヒ・シュリーマンのエピソードが、ビジュアル版では一頁ちょっとの分量だったのに対して、本書では八頁にわたって紹介、記述されていたこと。もう一点は、ホメロスの作品で有名なオデュッセウスの物語が、ビジュアル版よりも大きく取り上げられていたこと。冒険・放浪譚の面白さがよく出ていたこと。
一方で、集英社文庫のビジュアル版の何よりの美点は、ギリシャ神話にまつわる絵画や彫刻が多数、カラー図版で掲載されているところにあります。このため、ギリシャ神話がどれほどその後のヨーロッパの芸術作品に影響を及ぼしたかが、一目瞭然なんですね。視覚的に雰囲気のあるのは、断然、『私のギリシャ神話』のほうです。
本書は、以下の十二章で構成されています。
「トロイアのカッサンドラ」 「嘆きのアンドロマケ」 「貞淑なアルクメネ」 「恋はエロスの戯れ」 「オイディプスの血」 「闇のエウリュディケ」 「アリアドネの糸」 「パンドラの壺」 「狂恋のメディア」 「幽愁のペネロペイア」 「星空とアンドロメダ」 「古代へのぬくもり」
本書では紹介されていなくて残念でしたが、オイディプスのエピソードをもとにしたジャン・コクトーの『地獄の機械』という戯曲があります。謎をかけるギリシャのスフィンクスを始め、神話の幻想的な雰囲気が強く伝わってきた作品。これも面白いですよ。