ギリシャ、ローマ神話に登場するあらゆる神々や登場人物の名称とその生い立ちや性格、そして彼らに関するエピソードからゆかりの地名や祭典までが網羅された労作。ヨーロッパの二大神話の世界により親しみたい方は勿論、西洋美術や文学など専門的な研究をする者にとっても極めて貴重な資料でもある。
見出しの表記順序はカタカナ、ギリシャ語、ラテン語(ローマ神話の場合はギリシャ語の前に置かれる)、そして英、独、仏語の順で、更に巻末には検索用の索引と神々の主要系譜が付されているので非常に重宝する。ただし英語読みに慣れている神については、例えばヴィーナスあるいはビーナスで引く事はできない。ギリシャ語読みのアプロディーテーかラテン読みのウェヌスでしか表記されていない。このあたりにも編者の原典へのこだわりを感じさせる。
こうした辞典を製作するには古典語に精通しているだけでなく、現代にまで語り継がれた神話、それは地方によって、あるいは時代を追って変化するものだが、それらの神話に関するおよそ能う限りの資料を熟知し、簡潔に集大成する能力が要求される。初版の発行が1960年だが、それ以降半世紀もの間この種の辞典が日本語で出版されていないのは、その完璧さはもとより、編纂の煩雑さ故だろう。絶版になって久しいこの本の復刊を心から望んでやまない。