『愛と憎しみのギリシア』のセバスチャンの弟、アリスティドがこの作品のヒーロー。
物語は、アリスティドと妻イーデンが交通事故を起こし、イーデンが病院で目覚めるところから始まる。
病院のベッドに横たわりながら、アリスティドとの出会いから結婚するまでのこと、結婚してから今回の事故に至るまでの2人の生活を思い返す、イーデン。
「アリスティドとやり直そう。これからは彼ともっときちんと向き合い、よい夫婦関係を築いていこう」とあらためて決心するイーデンだが、
昏睡状態から目覚めた夫は記憶障害を起こしていて、“妻に関する記憶のみ”喪失していた…。
“妻という未知の存在”に強い警戒心を抱くアリスティドは、親しい友人(元恋人でもある個人秘書)にふきこまれるまま、
妻を“自分が忘れたいと願うような悪女”と信じ、妻に対してよそよそしく敵意に満ちた態度をとります。
そして“夫の記憶から消された妻”という事実だけでも衝撃なのに、他の女性の悪意ある言葉を信じ、
自分を冷たく拒絶する夫の態度にイーデンは深く傷つきます。
不安、警戒、敵意、苦痛、不信、屈辱、欲望、混乱…、さまざまな感情に翻弄される夫と妻の姿に、
わたしもくやしさ、せつなさ、みじめさ、もどかしさ、悲しみに身悶えしながら一気に物語に引きこまれました。
出会いからずっとアリスティドを一途に愛するイーデンがせつなくて、悲しくて…。
中盤に、絶望のあまりイーデンが慟哭する場面がありますが、この場面は本当につらくて苦しくて何回読み返しても泣けます。
“夫はなぜ妻の記憶だけ失くしてしまったのか?”
“アリスティドは本当にイーデンを愛していなかったのか?”
アリスティドの真実が明らかになったとき、それまでがせつなく苦しかった分、イーデンだけでなくわたしまで本当に救われたような気がしました。
ルーシー・モンローの作品でも特に気に入っている作品。
何度も読み返したくなり、何度読み返してもせつなさに泣け、読み終わった後はしあわせな気分になれる名作です。