東京大学名誉教授で、前多摩美術大学学長、MIHO MUSEUM館長の辻惟雄先生の語り口調も感じられる実に分かりやすい本でした。美術書と言うと堅苦しいとか難しいといったイメージをもたれやすいですが、本書ではそんな先入観は不要です。ただただ作品の面白さを辻先生と一緒に楽しんでほしいという内容でした。
NHK教育テレビ「知るを楽しむ この人この世界」で説明された内容『ギョッとする江戸の絵画』を1冊にまとめられたものです。岩佐又兵衛、狩野山雪、白隠、曽我蕭白、伊藤若冲、長沢蘆雪、葛飾北斎、歌川国芳という現代で人気を誇る江戸時代の絵師たちの見事な作品群に対して独創的で魅力的な解説が加えられています。
美術史の世界において名著の誉れが高い『奇想の系譜』より面白いのでは、という筆者の対談でのコメントはその通りかもしれません。40年間の学問的蓄積と様々な研究をされてきた幅広さがその審美眼の切れ味を増し、より大胆な踏み込みがなされているようでした。
村上隆氏との対談も大変興味深い見解が加えられています。
驚くべき奇才を8人並べることにより、近世絵画における狩野派、琳派の尾形光琳、そして四条派の円山応挙といったある種のメインストリームとは全く違う系譜を俯瞰して眺められる時代が来ているわけです。これらの8人の絵師の顔触れのバラエティを見ても隔世の感があります。 口絵の「山中常磐物語絵巻」「群仙図屏風」「動植綵絵」などの現代感覚に通ずる「異端」の絵師の作品への高い評価は時代がそれらの作品を求めているからでしょう。異端は時代を越えて鮮烈な光を放っています。これだけの特異な作品たちは世界史的に見てもあまり類をみない画風の流れだと思っています。
本書の本文で紹介されている作品はモノクロなのが惜しまれますが、ここで取り上げられている作品の奇抜さは時代を超える才能の発露であるのを確認していただきたいと思います。芸術の評価というのは、時代の反映でもあるわけですから。