ギュスターヴ・モローが残した未発表の作品を、自身の解説付し、その作品と共に掲載した珍しい美術書です。
作品同様、耽美的とも言える詩的な文章が綴られていました。画家自らが文章を表すということは珍しいことでしょうし、ある意味作品に対するイマジネーションを阻害する働きでもあるわけですが、ギュスターヴ・モロー・ファンにとってはやはり読んでみたいと思わせる内容でした。文章も作品と同じく、耽美的で幻想的で、幻影的でもありました。その一致にも興味を覚えます。象徴派と呼ばれた名品の数々は当然掲載してありますし、生涯の歩みも伺えるようになっていました。
20世紀のフランス文学研究者である武蔵野美術大学教授・藤田尊潮氏の翻訳と解説は、この作家の作品の理解を助けるものでもありました。
作品の一部はモノクロですが、代表作はカラーで掲載してあります。繰り返し描かれた「サロメ」や「出現」のヴァリエーションも知ることができました。なお、各作品に書かれた解説は翻訳者か編集部で書かれたものでした。
121ページの「ユピテルとセメレ」などの作品を眺めているとこれらの作品が後世に影響を与えたことは間違いないでしょう。他にこのような絵画を残した画家はいませんから。
20世紀も大分過ぎてから、シュルレアリスム派の人たちに再評価され、日本でも耽美派といえる人たちの熱狂的な支持があったモローです。現代の日本において高い人気を持つようになったのは、その画風のユニークさとある種のポップ・アートや劇画につながる流れを見出しているからかもしれません。それらの傾向は作品の主要テーマである彼の神への敬虔な思いとはまた別の次元ですが。