アーシュラ・K・ル=グインというビッグネーム、日本ではスタジオジブリ制作で話題になった「ゲド戦記」の原作者といったほうが通りがいいでしょうか。本書はそのグィンの新しいシリーズの第一巻です。
今回のシリーズは、「ギフト」と呼ばれるある種の超能力が血統によって引き継がれている「高地」とよばれる世界を舞台にした物語です。といっても、登場人物がすべて強力な超能力者というわけではなく、その高地世界の中でのいくつかの集落ごとにプランターと呼ばれる強い力をもつ統主のような存在がおり、それがその能力をもってしてそれぞれの部族を守って暮らしており、その能力も血統の中にしか現れないものの、強い力をもったものもいれば血統は濃いはずなのに能力の出ないものもいたりします。
主人公のオレックもそんな一人で、彼は「もどし」と呼ばれる破壊的なギフトをもつ一族の嫡男ですが、その能力が開花せず悩む少年です。彼は、父親からの過度な期待のために悩み続けますが、ある日、そのギフト能力が本人の意図としないときに暴発するということで、彼の能力の発動条件である「目」(視力)を父親によって封印されてしまいます。わずか13歳にしか過ぎない彼にとっては、それは大きな試練であり、かつまた高地に略奪によってつれてこられた「低地」生まれの母からすればそれは理解しがたい行為でした。
彼は、部族ごとの抗争やいざこざから領民を守る宿命を持ちつつも、それが果たせず苦悩を深めていきます。盲目の身となり、自分を疑い、肉親を疑い、自分に存在価値があるのかどうかで迷う。典型的なビルディング小説の作法といってしまえば、それまでですが、風景や世界の描写が美しく、夢のように世界の時間は流れて行きます。そして、その時間の中で、彼の身の上には次々と深い悲しみが訪れ、ついには大切な肉親まで失ってしまいます。
そんな彼にとっての唯一のなぐさめは、隣の部族のプランターの一人娘であるグライの存在です。たぶん彼女がいなければオレックの心はあっさりと折れていたでしょう。二人は幼い頃からの知り合いでなんとはなしに婚約者に近い扱いとなっていますが、状況は刻々とそれを許さない状況になってゆきます。果たして、二人の運命は。。。
ということであとは読んでのお楽しみ。
ひさびさに拡張高いハイ・ファンタジーの世界にどっぷりと浸ることができました。ハイ・ファンタジーだけあって導入の部分がちとまどろこしいのですが、そこはトールキンの「指輪物語」のそれのように、延々と続くというわけではなく、狂言まわしをうまく使ってのたかだか十数ページのことです。そこを過ぎれば、異世界への扉が待っています。
イメージとしては、安楽椅子かなにかに座って、暖炉の横ででも読みたい、そういう類いのファンタジーです。復興との戦いは長丁場になりますし、たまには精神を一時別開戦に切り替える意味でもこういうファンタジーもおすすめですよ。