これは実に危険な映画です。「いっちゃってる」度合いでは『タクシー・ドライバー』のトラビスよりもパプキンの方が上かも知れません。ジェリーはパプキンに「まずステージに立って下積みしてから来い」と、至極真っ当なアドバイスをします。しかしパプキンは聞く耳を持たず、とにかく早道をしてテレビに出ようとして、そして妄想を自己増幅させるのです。挙げ句の果てに犯罪の一線を越えて、これぞストーカーの心理・行動に他なりません(ただし副主人公のリタの方がストーカーの行動としてはダイレクトですが)。
彼を駆り立てたものは何だったのでしょう。酒場のホステスにいい顔をしたい、34歳という焦りがある、という合理的説明が映画中でされていますが、根はもっと深い所にある様に感じます。そもそも彼は30代になるまで何をしていたのでしょう。自伝がベストセラーになったりしているので、実は波乱の20代を送っていた可能性もあります。トラビスの様にヴェトナム戦争に従軍していたのか? ドラッグ、ヒッピーの日々だったのか? そう考えると引きこもって番組の自作自演をしているおぞましい姿にも凄みを感じるのです。何かをやり過ぎてメーターが振り切れて壊れてしまった後の姿なのかも。まあこれは穿ちに過ぎません。今現在の我々にとっては、オタク的な生活をずっと続けていたマニアが、度を越して精神のたがが外れてしまったという、恐ろしくも今日的に顕在するキャラクターを描いた先駆的作品だと評価できる逸品です。
〈追伸1〉ジェリー・ルイスについて、このDVD特典の削除シーンで初めてスタンダップ・コメディアンとしての側面を見ました。本当に貴重な映像で、これだけでも購入の甲斐があったというものです。
〈追伸2〉パプキンの会話の中にアニー・コバックスの名が出ていて驚きました。彼こそ本物の天才コメディアンです。映画マニアのスコセッシならではのこだわりが見えました。