本書の著者はそのキヤノンで一貫して特許事務にかかわってきた人物。海外企業との特許についての駆け引きと、今後の日本の特許戦略を展望している。第一章は、キヤノンの特許を巡る著者の体験の回顧だ。ハイライトはコピー機を巡る米ゼロックスとの駆け引き。著者はキヤノンの技術者と協力してゼロックスの特許の間隙を突いて新方式によるコピー機を市場に出すことに成功する。この部分は企業小説のような面白さに満ちている。
しかし、より重要なのは企業にとっての特許のあり方や交渉術、さらには日本の国家戦略について語った後半である。アメリカでの交渉方法、弁護士事務所の選び方といった戦術レベルの話から、相互に特許を提供し合うクロスライセンスを基本に、なにが自社にとって有利な条件かを検討するといった戦略の話に至るまで、過去の経験の精髄を惜しげもなく開陳している。その背景には日本の現状に対する危機感があるのだろう。最終章では、日本の特許制度と国家戦略の不備と、今後どうするべきかをやわらかく、しかし鋭く語っている。
興味深いことに、アメリカの特許制度の不透明さの例としてよく持ち出されるサブマリン特許について、著者は全く触れていない。適切な交渉ができるなら、サブマリン特許を恐れる理由はないということだろうか。技術にかかわる仕事をしているなら読んでおくべき本だ。
(ノンフィクションライター 松浦 晋也)
(日経パソコン 2002/05/27 Copyright©2001 日経BP企画..All rights reserved.)
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このようにしてゼロックス社の特許の高い障壁を乗り越えた、キャノンは、身をもって特許の重要性を認知し、特許重視の知財組織を作りあげていく。これはある意味でキャノンが日本の製造業の中でいち早く、米国を代表とする海外とのネゴシエーションの洗礼が社内文化として形成されたかを示している。インタビューでは特許ビジネスが、技術論だけでなく、いかに交渉術に基づくものであるか、また攻めと守りの交渉の妙などの持論を展開している。
日本の知財立国論が総論としては賛同されているが、実態は芳しい変貌は見られない状況の元、丸島氏は特許だけのの事業化は成り立ちにくい事(製造業と特許ビジネスは切り離せない)、ライセンス供与ばかりに目が向けられて、相手のライセンスを買う事の重要性、そして日本の大学との産学協同を政策提言している。冒頭、かのゼロックス社ですら、電子写真記録の発明者カールソンの特許を買って事業を興している事を知った。実はマイクロソフトも、アップルも似たような経緯を経ている。発明よりも、発明の価値を見出す目利きが重要なのだ。
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