○なぜいま、企業にキャリア・コンサルティングが求められるのか?
●激変する企業の人事制度
こうした動きの背景には、実は、日本企業の人事制度の変化があります。一つは、人事部の役割の変化で、現在、日本企業では「小さな人事部」へと組織改編が始まっています。従来人事マターであった社員への福利厚生や給与計算、採用部門を分社化したり、専門企業にアウトソーシングする会社も相次いでいます。
例えば、採用は人事部のコア業務とも言うべき戦略的タスクでしたが、新卒採用を請け負う採用代行サービスを導入する企業が増え、サービス代行会社が急成長しています。募集広告の掲載、応募書類の管理、セミナー開催など、個別の事務作業を行うにとどまらず、アイジャスト、シンカ、トライアンフといった採用代行大手は、採用戦略のコンサルティングまで、ほぼ一括受託する態勢を整えています。
しかし、採用代行はあくまで採用作業の局面だけを請け負っているわけで、新卒者の早期戦力化、定着などの作業は「小さな人事部」に委ねられます。これまでのようにジョブローテーションとOJTで新入社員が勝手に育ってくれる、という”良き時代”は終わりを告げました。新人育成を人事部がカバーしようと思っても、もともと手薄になりつつある人事部スタッフだけでは、新卒者への行き届いたフォローは難しくなっているのです。
このようなケースにおいても、キャリア・コンサルタントの存在は、新卒者に対するきめ細かな対応という形で生きてきます。本来なら、新卒者をオン・ザ・ジョブで鍛える立場にある先輩社員自身が、スリム化した業務セクションの中で手持ちの業務に忙殺され、新人を育成する余裕を無くしているという現実があるのではないでしょうか。
もう一つは、社員の働き方の変化です。例えば、東芝では、直属の上司を通さずに希望する部署へ異動を申し出ることができる「社内FA(フリーエージェント)制度」を導入しました。勤続五年以上の正社員全員が対象で、年齢や職種も問われません。FA権を行使する場合は志望動機や自己アピールなどを社内イントラネットに登録しますが、このデータは基本的に異動希望先の責任者しか見ることはできません。また、勤続三年以上の社員を対象に行ってきた社内公募制度についても、約二〇〇社の国内連結子会社すべてに適応されます。つまり、東芝本体の公募に子会社から応募するといった人事交流が可能になったわけです(社内公募制度は二〇〇三年一月に拡大運用を開始)。
日本の企業では、従来は部署間での人材異動はまれで、そのことが派閥や門閥を形成しかねない傾向も指摘され、子会社から本社への異動などは、到底考えられない抜擢人事でした。このように、企業の中でキャリアに関する“選択肢の多様化”が着実に進行しつつあります。
しかしながら、例えばFA権を行使する際、実際に自分に活用可能なキャリアがあることを志望部署の責任者に向けてアピールするのは、それほど容易なことではありません。イントラネットに掲示する「志望動機」「自己アピール」についても、自分を客観的に眺め、相手に自分のキャリアや能力、人柄までも文章で伝えることは非常に難しいのが現状です。
のちほど触れることになりますが、キャリア・コンサルタントは、こうしたアピールが必要な局面で、本人と面談し、本人の長所やキャリア面のアドバンテージを志望部署の責任者にうまく伝えるべくサポートし、現部署での仕事上の悩みなどにも応じることになります。これまで所属してきた部署を離れ、FAに応じること自体、本人にとってはプレッシャーになるはずです。そういったときにも、本人のキャリア・アップと会社としてのメリットを客観的に判断し、適切なアドバイスができるのは、中立性を保てるキャリア・コンサルタントをおいて他にないのではないでしょうか。
現代のように変化の激しい時代の中で、判断の遅れは致命的なミスとなります。それは、自分のキャリアアップという局面でも同様で、キャリアコンサルタントが増加していくことは、おそらく時を経ずして「自立した個人」の増加という傾向に現れていくことになります。
●多様化する企業の雇用形態
「高卒者の就職が厳しく、フリーターが企業に正社員として入るのも難しい。しかし、社会が階層化し、その間に厚い壁ができては国の活力が落ちる。人口は減少していくのだから、企業は年齢、性別や経歴にとらわれない人材の活用を真剣に考えるときだ。頑張っているパート社員、派遣労働者を正社員に登用する仕組みも欠かせない。産業社会の活力回復に、企業が自らの手で改革できる部分はたくさんある」とは、慶応大学の樋口教授の言葉ですが、年功・終身制が揺らぎ、「入社から定年まで」を視野に入れていた企業の制度、慣習のスクラップ&ビルドが進むなか、重要な人的資産となる労働階層として、中途退職者の再雇用、パート出身者の正社員昇格などのケースが顕在化しつつあります。
かつて、会社を飛び出した人材の再雇用は、高度な専門能力を持つ人材を呼び戻すケースや、雇用制度が柔軟なリクルートで行ったケースなど、限られたものでした。しかし最近では、大手製造業にもカムバック社員を受け入れるケースが増えています。例えば、富士ゼロックス、日産自動車、三菱商事、千代田化工建設などで再雇用制度が運用されており、とくに二〇〇一年秋から始めた千代田化工建設では、すでに再雇用者数が一三〇人を数えます。
またダイエーでは、今春からフルタイム勤務が可能なら、やる気と能力次第でパート社員が課長以上の管理職になる道を開き、今年の九月には、店舗の課長職に三人のパート出身者を登用しています。帝人では「家庭責任による退職者再雇用制度」を導入、出産や育児、配偶者の転勤など、家庭の事情でいったん退職した社員の再活用を目指しています。銀行などパートや契約社員で再雇用する例はありますが、帝人の場合、正社員の立場で復帰させる点に特徴があります。
このように、職場内で、あるいは職場外からの人材流動化は激しくなっています。すると、「一度会社に見切りをつけた人間をなぜ再雇用するのか」「女性の管理職枠は男性社員に対する逆差別だ」など、さまざまな軋轢が生まれる可能性は少なくありません。
こうしたとき、「事業強化の旗印のもと新たな制度を積極的に導入する」という人事部サイドと従業員サイドとの仲立ちをして、ヒアリング、提案、グループワークなどの手法で対応するのがキャリア・コンサルタントの役割となるでしょう。
長引く経済的低迷の中で、企業は長い目で見た評価より短期の成果が問われています。自らの能力を生かした転職志向も一段と強まります。一方でリストラが進み、人員削減の結果、一人あたりの社員にかかる負担が増えています。人事や賃金制度に能力主義が導入されて社員間の競争も激化し、評価に脅えて伸び伸びと働くことのできない職場へと変化するケースも無いとは言えません。このような事態を未然に防ぐためにも、企業におけるキャリア・コンサルティングの重要性は高まっているのです。
○なぜいま、企業にキャリア・コンサルティングが求められるのか?
●激変する企業の人事制度
こうした動きの背景には、実は、日本企業の人事制度の変化があります。一つは、人事部の役割の変化で、現在、日本企業では「小さな人事部」へと組織改編が始まっています。従来人事マターであった社員への福利厚生や給与計算、採用部門を分社化したり、専門企業にアウトソーシングする会社も相次いでいます。
例えば、採用は人事部のコア業務とも言うべき戦略的タスクでしたが、新卒採用を請け負う採用代行サービスを導入する企業が増え、サービス代行会社が急成長しています。募集広告の掲載、応募書類の管理、セミナー開催など、個別の事務作業を行うにとどまらず、アイジャスト、シンカ、トライアンフといった採用代行大手は、採用戦略のコンサルティングまで、ほぼ一括受託する態勢を整えています。
しかし、採用代行はあくまで採用作業の局面だけを請け負っているわけで、新卒者の早期戦力化、定着などの作業は「小さな人事部」に委ねられます。これまでのようにジョブローテーションとOJTで新入社員が勝手に育ってくれる、という”良き時代”は終わりを告げました。新人育成を人事部がカバーしようと思っても、もともと手薄になりつつある人事部スタッフだけでは、新卒者への行き届いたフォローは難しくなっているのです。
このようなケースにおいても、キャリア・コンサルタントの存在は、新卒者に対するきめ細かな対応という形で生きてきます。本来なら、新卒者をオン・ザ・ジョブで鍛える立場にある先輩社員自身が、スリム化した業務セクションの中で手持ちの業務に忙殺され、新人を育成する余裕を無くしているという現実があるのではないでしょうか。
もう一つは、社員の働き方の変化です。例えば、東芝では、直属の上司を通さずに希望する部署へ異動を申し出ることができる「社内FA(フリーエージェント)制度」を導入しました。勤続五年以上の正社員全員が対象で、年齢や職種も問われません。FA権を行使する場合は志望動機や自己アピールなどを社内イントラネットに登録しますが、このデータは基本的に異動希望先の責任者しか見ることはできません。また、勤続三年以上の社員を対象に行ってきた社内公募制度についても、約二〇〇社の国内連結子会社すべてに適応されます。つまり、東芝本体の公募に子会社から応募するといった人事交流が可能になったわけです(社内公募制度は二〇〇三年一月に拡大運用を開始)。
日本の企業では、従来は部署間での人材異動はまれで、そのことが派閥や門閥を形成しかねない傾向も指摘され、子会社から本社への異動などは、到底考えられない抜擢人事でした。このように、企業の中でキャリアに関する“選択肢の多様化”が着実に進行しつつあります。
しかしながら、例えばFA権を行使する際、実際に自分に活用可能なキャリアがあることを志望部署の責任者に向けてアピールするのは、それほど容易なことではありません。イントラネットに掲示する「志望動機」「自己アピール」についても、自分を客観的に眺め、相手に自分のキャリアや能力、人柄までも文章で伝えることは非常に難しいのが現状です。
のちほど触れることになりますが、キャリア・コンサルタントは、こうしたアピールが必要な局面で、本人と面談し、本人の長所やキャリア面のアドバンテージを志望部署の責任者にうまく伝えるべくサポートし、現部署での仕事上の悩みなどにも応じることになります。これまで所属してきた部署を離れ、FAに応じること自体、本人にとってはプレッシャーになるはずです。そういったときにも、本人のキャリア・アップと会社としてのメリットを客観的に判断し、適切なアドバイスができるのは、中立性を保てるキャリア・コンサルタントをおいて他にないのではないでしょうか。
現代のように変化の激しい時代の中で、判断の遅れは致命的なミスとなります。それは、自分のキャリアアップという局面でも同様で、キャリアコンサルタントが増加していくことは、おそらく時を経ずして「自立した個人」の増加という傾向に現れていくことになります。
●多様化する企業の雇用形態
「高卒者の就職が厳しく、フリーターが企業に正社員として入るのも難しい。しかし、社会が階層化し、その間に厚い壁ができては国の活力が落ちる。人口は減少していくのだから、企業は年齢、性別や経歴にとらわれない人材の活用を真剣に考えるときだ。頑張っているパート社員、派遣労働者を正社員に登用する仕組みも欠かせない。産業社会の活力回復に、企業が自らの手で改革できる部分はたくさんある」とは、慶応大学の樋口教授の言葉ですが、年功・終身制が揺らぎ、「入社から定年まで」を視野に入れていた企業の制度、慣習のスクラップ&ビルドが進むなか、重要な人的資産となる労働階層として、中途退職者の再雇用、パート出身者の正社員昇格などのケースが顕在化しつつあります。
かつて、会社を飛び出した人材の再雇用は、高度な専門能力を持つ人材を呼び戻すケースや、雇用制度が柔軟なリクルートで行ったケースなど、限られたものでした。しかし最近では、大手製造業にもカムバック社員を受け入れるケースが増えています。例えば、富士ゼロックス、日産自動車、三菱商事、千代田化工建設などで再雇用制度が運用されており、とくに二〇〇一年秋から始めた千代田化工建設では、すでに再雇用者数が一三〇人を数えます。
またダイエーでは、今春からフルタイム勤務が可能なら、やる気と能力次第でパート社員が課長以上の管理職になる道を開き、今年の九月には、店舗の課長職に三人のパート出身者を登用しています。帝人では「家庭責任による退職者再雇用制度」を導入、出産や育児、配偶者の転勤など、家庭の事情でいったん退職した社員の再活用を目指しています。銀行などパートや契約社員で再雇用する例はありますが、帝人の場合、正社員の立場で復帰させる点に特徴があります。
このように、職場内で、あるいは職場外からの人材流動化は激しくなっています。すると、「一度会社に見切りをつけた人間をなぜ再雇用するのか」「女性の管理職枠は男性社員に対する逆差別だ」など、さまざまな軋轢が生まれる可能性は少なくありません。
こうしたとき、「事業強化の旗印のもと新たな制度を積極的に導入する」という人事部サイドと従業員サイドとの仲立ちをして、ヒアリング、提案、グループワークなどの手法で対応するのがキャリア・コンサルタントの役割となるでしょう。
長引く経済的低迷の中で、企業は長い目で見た評価より短期の成果が問われています。自らの能力を生かした転職志向も一段と強まります。一方でリストラが進み、人員削減の結果、一人あたりの社員にかかる負担が増えています。人事や賃金制度に能力主義が導入されて社員間の競争も激化し、評価に脅えて伸び伸びと働くことのできない職場へと変化するケースも無いとは言えません。このような事態を未然に防ぐためにも、企業におけるキャリア・コンサルティングの重要性は高まっているのです。