秋葉原の観光地化やニコニコ動画の流行など、だんだん一般的に抵抗が無くなっていっていると思われるオタク文化ですが、やっぱりどこか、アニメや漫画について大真面目に語るのは恥ずかしいな、と思っている方は多いのではないでしょうか。美少女ゲームならなおさらのこと。
そこでこちらの本です。著者は美術評論家としてキャリアのある方で、現代美術やらドゥールズやらかっこよさげな本をいくつも書いています。
かっこよさげなだけで読んでもしかたがないですが、内容としても私は大変に興味深いと思いました。第一章では大塚英志や東浩紀の分析をひいて、キャラクター論の系譜を探っていきます。とくに画期的だったのが伊藤剛の提唱した「キャラクター」と「キャラ」の分理論。「キャラクター」はほぼ、物語の登場人物と同義と考えて良いですが、「キャラ」はその人自身のもつ属性のようなもので、「いじられキャラ」「癒し系キャラ」「キャラが弱い」など、流行語として一般にも浸透しており、オタク文化を越えて現代社会全般を射程におさめている図式であるという。
第二章はセカイ系についてで、新世紀エヴァンゲリオンに端を発するこの問題系は、コミュニティ論としての「親密圏」に接続されるという。「親密圏」はドイツの哲学者ユルゲン・ハーバーマスが提唱した概念で、そもそもは近代的な小家族形態に対応する概念でしたが、現在ではケータイやネットでよってつながるごく小さなコミュニティとして再解釈されているという。「キミ」と「ボク」の物語として綴られるセカイ系は、宇野常寛が言うように「古い」ものでは決してなく、むしろ「新しい」ものであり続けている。
などなど、オタク社会固有のものであると思われていたバズワードや問題系が、実はそれにとどまるものではなく、現代社会全般のとくにコミュニティ論に接続されていることを、この本は示します。また、90年代以降のいわゆるオタク文化の概論としても優秀で、キーワードとなる各作品やキャラクターの概観を読みやすく、手際よく紹介してくれます。いわゆる「オタク評論」文化に「興味はあるけど、なかなか手が出ない」という人がはじめに読むには最適で、またこの本一冊を読めば、それなりに話ができるのではないかと思いました。
反面、第三章と第四章ではヤンキー文化とオタク文化の接続や、初音ミクやラブプラスなど最近のヒット商品を取り扱っていますが、紹介に終始しており、第一章と二章で見せたような一般的な問題をオタク言語で切り分ける鮮やかさが、あまりなかったように思います。ちょっと駆け足で失速しちゃったような印象でした。
そのぶんを加味して評価は星四つですが、しかしいきなり『動物化するポストモダン』なんかを読むより、こちらを読んだほうがはるかにこのジャンルに入って行きやすいと思います。