彼らが提唱しているのは企業評価のための「バランスト・スコアカード」といって、従来の財務諸表に代わる野心的ツールである。2人は、そのバランスト・スコアカードに関する本をすでに1996年に公刊したが、それを理論書とすれば、2冊目に当たる本書は実務家のための手引書ともいうべきものである。
従来型の業績評価は財務尺度だけで行われてきた。しかし財務尺度は、過去の行動の結果を示す遅行指標にすぎない。それに対して著者が提唱するバランスト・スコアカードでは、財務の視点に立った尺度のほかに、顧客、内部プロセス、学習と成長という3つの異なる視点に立った尺度が考慮される。結果として、それは戦略の測定に役立ち、戦略実行の有力な武器となるのである。記述は平易で、わかりやすく、具体的である。戦略志向の組織が持つべき5つの原則を提示し、それに沿って豊富な事例がレポートされている。
著者の1人のキャプランはハーバード・ビジネス・スクールの教授であり、もう1人の著者のノートンは、バランスト・スコアカードの研究・普及を業務とする会社の社長である。理論的に野心的なツールをアカデミックな世界にとどめずに、広く普及させようという強い意志が、このコンビには感じられる。
実際、本書を通読すると、この書物自体がバランスト・スコアカードのよくできたプロパガンダだという印象さえ受ける。とはいえ、本書が実務的に有用な手引書であることには疑問の余地がない。翻訳も、丁寧な仕事である。
あえて本書に不満をもつとすれば、日本の事例が含まれていないことだ。もう1つ、研究開発といった不確実性の高い業務を担う組織で、バランスト・スコアカードがいかにしたら適用可能かも触れられていない。(榊原清則)
バランスト・スコアカードの導入によって、企業は伝統的な財務測定尺度だけでは測りきれない価値創造活動の測定が可能になり、新しい戦略を効果的に導入できるようになるという。本書は旧モービル北米マーケティング&リファイニング事業部、シグナ傷害火災保険事業部、ケミカル・リテール・バンクなど、業績不振にあえいでいた企業が、どのように新戦略を築き、収益を向上させていったかを記す。
各社は市場での自社の位置づけを見直し、明確に焦点を絞り込んだうえで、成果連動型報酬制度を導入するなどして、すべての従業員が新しい戦略に照準を合わせて行動できるよう工夫している。中小企業や非営利組織にも浸透しつつあるこのシステムの全容を披露する。
(日経ビジネス 2001/10/01 Copyright©2001 日経BP企画..All rights reserved.)
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