◆「神なき塔」
塔から飛び降りたはずの反重力の研究者が屋上で死体と
なって発見され、一方、塔の下では別の人間が死んでおり……。
「重力」に異常な執着を見せる研究者がたどり着いた逆説的帰結こそ、
作品のテーマでしょうが、議論を重ね、仮説をどんどん上書きしていく
濃厚な解明パートも面白いです。特に、綱渡りなメイントリックが秀逸。
◆「ノアの最後の航海」
聖書根本主義を深く信奉したため、ノアの方舟を再現し、
来るべき大洪水に備えようとしたノア・クレイポールが、
彼と対立するいとこのクレイポール博士と一緒に変死した。
しかし、ノアの遺産は、八人の相続人が揃っていなければ、
全額寄付されるため、金銭面での動機を持つ人間はいない……。
宗教家の信仰と学者の論理の対立が描かれるとともに、それを俯瞰で
見下ろし、操る黒幕の存在がキッドの推理によって明らかにされます。
◆「永劫の庭」
ラドフォード伯爵邸の壮麗な庭園で行われる「宝探しゲーム」。
しかし、当の伯爵は前日から行方不明となっており、その生死も判然としない。
そして、キッド達が宝探しの果てに見出したのは、宝物
ではなく、伯爵のものとおぼしき首なし死体だった……。
西欧庭園の特徴や変遷が解説されながら行われる宝探し
には、作品の主題とかみ合った幕切れが用意されています。
また、ミステリの仕掛けとしては、首切りのホワイダニットが秀逸です。
本作で展開されているのは、それまでの二篇で見られた狂人
の論理ではなく、無用の論理と呼ぶべきものだと思いました。