映画評論家・山田宏一氏が「犯罪暗黒映画」ベストを選出したときにベスト・ワンに推した白黒作品。フランスのカイエ・ド・シネマ同人に高く評価されていたのでしょう。アルドリッチ監督は彼らに「偉大なボブ Le Gros Bob」とあだ名されていたといいます。
表面上はスピレーン原作のハードボイルド映画で、会話が倫理コードすれすれの危うさ。しかし、物語の展開はクリスティーナ・ロセッテイの詩句「リメンバー・ミー」や「マンハッタン計画、原子爆弾、トリニティ(三位一体,マンハッタン計画で出来あがった三個の原子爆弾のこと)」など謎めいた言葉で彩られます。さらに、原子爆弾の入った箱を医師が「パンドラの函」「ロトの妻」「メドゥーサの首」などと喩えたり、女殺し屋リリーが「私はガブリエル。あなた(主人公の探偵マイク)はミカエルね」という台詞を言います。ガブリエルもミカエルも共に大天使で、大天使ガブリエルは「神の人」で神の言葉を告げる預言者、大天使ミカエルはあらゆる悪に勝利する戦闘天使です。つまり、核爆弾という<悪魔>を解放する(原子爆弾の箱を開く)予言者と、悪と戦う探偵が天使になぞらえられています。この映画には、名前だけではなくあちらこちらにキリスト教の暗喩が仕掛けられています。