『クール・ストラッティン』よりも脚線美!まずジャケデザインで掴まされましたが、内容も非常にいいです。ほぼスローソングスで色づけされた作品なんですが、リー・コニッツら一流のサポート陣の演奏も味わえるのですよ。
Lee Konitz(as), Renee Rosnes(p), Ron Carter(b), Grady Tate(ds), Claudio Roditi(tp), Ole Matheison(ts)
彼らの演奏はケイコの歌をさりげなくそしてしっかりと引き立てますね。慎み深い演奏の中に、はっとする美しい瞬間やインタープレイのソロに見所がたくさんありました。
一方彼らと堂々と渡り合うケイコの深みはもっと凄い。これでまだセカンドアルバムかといううたの求心力です。
バラードというのは誤魔化しがきかないので、歌い手の力量が丸裸になるわけですが、ケイコの次元はもっと高みにありました。
ここでの彼女は主張するようなアウトプットは見せません。どれも自然体にうたい、うたと彼女が先にこちらへ着いたあと、情感はあとからやってくるよう。それほど息をのむ演奏です。
スローな曲だからゆっくり歌うというより、彼女のうたの歩幅に自然と曲が後からついてきて、スローなテイストにでもなったよう。
これは音符の支配だけでなく、休符の支配、アンサンブルの呼吸を掌握する力ですね。
そして歌声の中にケイコの恣意的な不純物が介在せず、まさにうたの化身となったケイコの演奏が光ります。
スタンダードを聴かせる、というよりスタンダードそのものにケイコが同化してしまう、その引力が実にすばらしいです。
1「Come Back, Bebop ( Lover Come Back to Me )」だけは加速する曲ですが、非常にしなやかに軽やかに、むしろゆっくりとしたスピードの余裕で、
アンサンブルを掌握してしまう間合いの支配力は、もはや歴戦の歌い手のよう。
ロン・カーターのピチカートから始まる7「Man I Love」のケイコも素晴らしいです。曲にひそむ人間味を、半音の制御を完璧にしながら、いとも簡単に描き出してしまいます。
歌い手自身の癖や個性で誤魔化せそうな曲も、最後まで中庸ですし、しなやかな表現なのです。
これは、何度も聴きたい名作ではないでしょうか。後の『ビューティフル・ラヴ』も優れたバラード集ですが、静かに高揚のカーヴを描く今作の一貫性の方が、私はお薦めです。