△この映画の率直な印象を一言でいうならば、「人の道にははずれているけれどそれぞれの理屈にはかなった行動をとる人々の群像劇」というところでしょうか。
自殺という形で妻を失った夫ニコラス。母の自殺の原因を義父にあると疑う息子ラモン。その父と息子の両方と関係を持つメーキャップ・アーティストのキカ。センセーショナルな事件専門の番組司会者アンドレア。ポルノ男優で脱獄囚のポール。その脱獄を手助けする同性愛者の姉フアナ。
縦軸は愛憎うずまくミステリー・サスペンス劇なのですが、奇行に満ちた登場人物たちが横軸を彩っていきます。この映画は倫理観の強い人の眼には首肯しかねる作品と映るでしょう。しかし彼らの姿はどこかカラリと乾いた明るさと滑稽さを伴っているので、観る者を打ちのめすような絶望的な物語にはなっていません。
ビクトリア・アブリル演じる番組司会者が身にまとう衣装の数々は、デザインが実にお見事です。ことにパパラッチ的取材に出かけるときに身につける「撮影スーツ」は、アンドロギュヌス的な<精悍さ>、コミカルなまでの<けれんみ>、そして映像メディアの<暴力的な眼差し>をあわせ持っていて、映画史に残るデザインといえます。
つきぬけたような人物造形。まぶしいほどの赤を基調とした色彩感覚。特異で奇怪でありながら不快ではない衣装。ダリ、ミロ、ピカソを生んだ国とはこういう視覚的感性を伝統的に持っているのでしょうか。そうしたスペイン的な味わいを楽しむ映画、それがこの「KIKA」なのだと思います。
▼DVDの特典としてはスペイン本国で上映されていた予告編映像程度しか見るべきものがないのが残念です。
△読書番組の司会を務めている高齢の女性は素人っぽいなと思ったら、監督の実のお母さんだそうです。