男という性の暗部を、全て凝縮したかのような義父に陵辱される日々を書いた自伝的小説『
ファザーファッカー (文春文庫)』は衝撃的だった。しかし、その後の義父からの逃走劇を書いた『
あたしが海に還るまで (文春文庫)』は一点退屈になっていた。入れ替わり立ち替わり、主人公の前にはろくでもない男が現れるのだけれど、彼らはみな義父の衝撃度を超えるものでもなく、また主人公の被害者面というのが、変に板についてきてしまってもいた。ルーティンワークになるはずのない悲惨な出来事なのに、ルーティンワークと化していたのだ。
しかし今回の『キオミ』は、それら自叙伝から離れ、ある程度の距離を置いて物語を構築しているせいか、また面白さが息を吹き返している。この短編集の主役の女たちは全て、“均等法後”の働く成人の女。必然的に前二作の主人公たちとは違い、その世界観は広がっているのだが、やっぱり彼女らも男に発情し、男にやられ、男に騙されるのである。
そして表題作『キオミ』では、女性の新たなる局面である「出産」が描かれる(今までも「妊娠」は描かれていたが、その帰結は全て中絶か流産だった)。理不尽なまでに浮気を繰り返す夫に耐えられなくなり、主人公キオミは実の「ママ」に離婚を打ち明けるのだが、あろうことか説得されてしまう。それでも我慢して迎えた出産で生まれたのは娘。
そして・・・女の敵は女だったのである。