ガンディーといえば「非暴力不服従(サッティヤーグラハ)」が有名であるが、その言葉だけを知っているだけでは何かもったいない。大切なことは、やはりそれを生み出した彼の人生と、その根底においてあみだされた彼独自の思想を同時に追うことであり、そうすることによってその言葉の理解もさらに深まると思う。日本の終戦記念日である8月15日のちょうど2年後である1947年8月15日にイギリスより独立したインド。もちろんガンディーはその立役者であるが、インドとパキスタンの分離独立は、必ずしもガンディーが希望した思い通りの結果ではなかった。本書は、その独立にいたるまでの植民地インドの歴史的そして社会的背景と、ガンディーの生い立ちを重ねて論じている。そこではガンディーによる「反近代の実験」の成功と失敗による苦悩がありありと描かれている。
当然ではあるが、ガンディーは生まれたときからサッティヤーグラハを志し、菜食主義であり、時に抗議の断食をするような「聖人」だったわけではない。家族への想い、ヒンドゥー教からの影響、南アフリカにおける差別や不正と闘う弁護士活動などを糧としてたどり着いたものである。簡単に言えば、サッティヤーグラハは交渉することによって「相手に恐怖心を抱かせない」ことを基本原理としている。またイギリスのインド植民地支配からの脱却を願う「自立(スワラージ)」は、同時に国内においてカースト制からの脱却と、欲望につきすすむ西洋文明からの脱却も必然的に含まれるものであった。しかしその理想は必ずしもうまく運ばない。特にヒンドゥーとイスラムの対立化は、最も避けるべき課題であったが、最後まで彼を悩ますことになる。そこに、第二次大戦の勃発による国際的変動が追い討ちをかける。
本書を読むとガンディーは「理想主義者」であると同時に「現実主義者」であることに気付かされる。特に地道に徹底的に交渉し、落としどころを探る姿がそれである。また意外な日印関係にも気付かされた。その中でも注目は、あとがきにも記されているように、「欲望の制御にもとづく人間と自然の共生」を説いた姿である。影響力が徐々に失われ、異を唱える勢力が増した後年においても、彼は農村に赴き、大衆への活動をやめなかった。その彼の行動力と、西洋文明を鋭く批判し人間の生命を中心に据えて「スワラージ」を説いた文明観は、「そんなの理想的すぎるよ」とは一方で思うのも当然であるが、とても学ぶべきことが多いことも確かである。