精神を病み孤独に没した数学者カントールの死は悲劇だが、七月革命直後のパリで決闘に散った若き数学者ガロアの死には、どこかロマンの香りがただよう。
そんなイメージも手伝い、ガロアの生涯を語る本は多い。
ところが意外なことに、手軽に入手できる一冊にまとまったガロアの伝記というものは、ほとんど無いのが実情だった。
そうしたなか、ガロア生誕200年ということも手伝い、やっと新しいガロアの伝記が新書で登場したことは大いに歓迎したい。
伝記に重点を置いたこともあり、本書ではガロア理論の数学的内容までには立ち入っていない。
一方、ガロアの生きたフランスの時代背景については詳しい解説があるため、王党派と共和派が覇権を争う混沌とした社会のようすが分かりやすく伝わってくる内容となっている。
多くの書物では、ガロアの論文を紛失した悪役とされてきたコーシーだが、本書ではそういった彼の立場を見直し、むしろ、ガロアの論文を高く評価し積極的に支持した人物として、コーシーの名誉回復がなされている。
また、試験官の不当なあつかいで、ガロアがエコール・ポリテクニーク (工科大学) の受験に失敗したかのようなイメージも、本書では修正されている。
というのも、エコール・ポリテクニークの受験に失敗したのち、ガロアは特別あつかいでエコール・プレパラトワール (教育大学) への入学が許可されているからだ。 (どちらも国内最高の教育機関)
すでに彼の数学の才能は、そんなかたちで周囲の人々にも認められ優遇されていたらしい。
一方、ガロアの決闘による死については、あいかわらず謎に包まれた点が多い。
あふれんばかりの才能を持った天才が、おのれの激情と社会の混乱に翻弄され破滅へむかう様には、自分のような凡人は、もどかしさを通り越し腹立たしさすらおぼえたりもする。
しかし本当は、二十歳そこそこの若者がこれほど大きな業績を残したことに対し、もっと目をむけてやるべきなのだろう。
ガロアの発見した 「群論」 という考え方は、現代の代数学だけではなく、素粒子物理学でも基礎的な枠組みとなっているほど重要な概念だからだ。
群論という抽象的な考え方について解説した一般書では、遠山啓 『
無限と連続』 が一番のおすすめ。
また、マーカス・デュ・ソートイ 『
シンメトリーの地図帳』 は、対称性 (シンメトリー) という視点から群論を解説した、誰もが楽しめる読み物。
物理学と群論の関係については、マルコム・E・ラインズ 『
物理と数学の不思議な関係』 が比較的くわしく読みやすい。