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ガリツィアのユダヤ人―ポーランド人とウクライナ人のはざまで
 
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ガリツィアのユダヤ人―ポーランド人とウクライナ人のはざまで [単行本]

野村 真理
5つ星のうち 4.5  レビューをすべて見る (2件のカスタマーレビュー)
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商品の説明

内容(「BOOK」データベースより)

現在は西ウクライナと呼ばれる東ガリツィア。かつてそこでは、ウクライナ人が多数者でありながら、政治的、経済的支配権は少数者のポーランド人が握っていた。ウクライナ人とポーランド人のはざまにあって、彼らに嫌われる原因となる事柄がしばしば生き抜くための唯一の選択肢であったユダヤ人。やがてこの地でウクライナ人の民族独立運動が立ち上がり、スターリンのソ連とヒトラーのドイツが衝突するなかで、ユダヤ人はいかなる運命をたどったのか。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)

野村 真理
1953年生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程退学。金沢大学人間社会研究域経済学経営学系教授。一橋大学にて博士(社会学)取得。2003年日本学士院賞受賞。専攻は社会思想史、西洋史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

登録情報

  • 単行本: 270ページ
  • 出版社: 人文書院 (2008/09)
  • ISBN-10: 4409510606
  • ISBN-13: 978-4409510605
  • 発売日: 2008/09
  • 商品の寸法: 19 x 13.8 x 2 cm
  • おすすめ度: 5つ星のうち 4.5  レビューをすべて見る (2件のカスタマーレビュー)
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By akashishiuenomaru VINE™ メンバー
形式:単行本
 中井和夫のウクライナ学に感化を受けて、折にふれてウクライナ史の周辺について読み漁ってゐた私にとって本書のユダヤ人史は、今までと異なるウクライナ史への視角を与へてくれたものである。歴史上の苦難を背負ひつつ興隆して来たウクライナナショナリズムに共感の思ひがあっただけに、十分知らなかった世界を改めて教へられた氣がしてゐる。
 本書によって東ヨーロッパのユダヤ人社会の発生と変遷、特にガリツィアといふユダヤ人卓越地域の様相を深く知る事ができたと感じてゐる。学生時代に木村靖二の欧州政治史の講義で第二次大戦での東ヨーロッパと西ヨーロッパの違ひ(国境線の変更や民族問題の有無)、ナチ占領地で当局為政者がユダヤ人情報をナチに提供してゐたといふ共犯構造等を学んでゐたが、今回その政治史の現場の具体状況を明示して貰ったわけである。
 また、東ヨーロッパでの反ユダヤの構造も詳しく説明してくれたと思ふ。それは、商品経済が発達してゐない農村社会に経済観念に長(た)けたユダヤ人が入り込み、経済的方面を独占的に支配し、さういった事態に居住民が反感を抱くといふ形である。そこには、当然宗教的、文化的違和感が反感を増幅してゐるのである。更に、近代国民国家未成立の中で貴族領主制、農奴制からの脱皮、変遷過程でのユダヤ人への憎悪が増幅し、悲劇に結びついたのであらうと思ふ。民族性を守る事と居住地域の他民族との協調とがうまく調整できなかった悲しむべき事態である。
 その過程の中でも第一次大戦後のオーストリア帝国崩壊時が大きな転換期であったやうに感じてゐる。といふのもガリツィア地域の再編期に「民族自決」が時代のテーマであったにも拘はらず、ポーランド人は、宗主国的意識からユダヤ人やウクライナ人は従属して然るべきだといふ粗暴な態度をとり続けてしまったわけで、この地域の多数派であるウクライナ人との協調できない不可逆的な関係を招来してしまったのではないか。ユダヤ人も被支配民族ウクライナ人への距離の取り方が不明なまま過ぎてしまったのではないか。
 筆者の論考で惜しむらく感じるのは、ウクライナ人のユダヤ人に対する具体的な感情が今一歩、描き切れてゐない点である。どれ程の憎悪と葛藤の思ひがあったのか推し量る材料が乏しいのは、誠に残念な限りである。
 本書と直接関係はないが、支配民族、被支配民族の状況の類似としてラトビアにおけるラトビア人とドイツ人の関係が、ガリツィアにおけるウクライナ人とポーランド人の関係にあてはまる歴史展開ではないかと内心、推察して居り、興味深い比較ができないかと思ってゐる。
 最後に、筆者に秘められたガリツィア・ユダヤ人史に多分日本で初めて光を照射してくれた功績は、とても素晴しい快挙かと強く敬意を表する。ウクライナ周辺史に関心を持つ者として、更なる論考を重ねられる事を強く願ふ次第である。
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By 閑居人 トップ100レビュアー
形式:単行本|Amazonが確認した購入
なぜ、ユダヤ人は、民族浄化の対象とされたのか?なぜ、ヨーロッパには、「反ユダヤ主義」「ユダヤ人忌避感情」がほとんど全ての国にあるのか?
「ユダヤ人の歴史」と現在の「イスラエル」という国家について考えるとき、誰もがこういった疑問に向き合わざるを得ないであろう。
本書が扱う「ガリツィア」とは、アウシュヴィッツ収容所のあるポーランド南部のクラコフからスロバキアとの国境に至る地域と西ウクライナのリヴウを中心とする地域のことである。著者は、この地域の支配民族であるポーランド人と農奴的存在であったウクライナ人、そして中世以降その間に入り込んで徴税請負や酒屋、雑貨屋、金貸しとして中間搾取者になったユダヤ人が、どのように運命を切り結んだのかを描こうとする。
著者は、「定説」に従って、中欧のユダヤ人は東からきた改宗ユダヤ教徒「ハザール起源」の人々は少なく、多くは十字軍時代にポーランドの「ユダヤ人厚遇策」に惹かれて移住した人々だと言う。彼らは、ポーランド貴族の土地賃貸人(アレンダール)として賃貸や徴税請負に従事し、金融、手工業者としてもウクライナ人農奴との狭間で生き延びようとした。穀物はバルト海沿岸のグダニスク(ダンチッヒ)のようなハンザ同盟都市のネットワークを通してオランダなどに輸出されたが、それはポーランドの産業の発達に貢献するまでには至らなかった。
穀物輸出の不振から貴族たちが収入源として試みたのが、酒の独占的製造・販売である。この権利を「プロピナツィア」という。中欧の酒場の経営者はユダヤ人であり、酒場は、宿屋になり、雑貨屋になり、小口の金貸しになった。地域社会の中で少数の異教徒が経済の実態を握れば、不測の事態に焼き討ちや取り壊し、虐殺事件が起こるのはいつものことである。中欧では、この「焼き討ち」を「ポグロム」という。ロシア語であることが示唆するように1880年代にロシアで頻発し、中欧を猖獗した言葉である。
歴史を通じてユダヤ人は、常に支配者に寄り添った。彼らが、キリスト教世界で「ユダヤ教徒」として生き延びるためには、王侯貴族に対して「寛容税」等の賦課金を払い、保護を要請する以外にない。三回目のポーランド分割で「ガリツィア」がオーストリアの支配下に移ると、ハプスブルク家に巧みにすり寄っていく。これは、ユダヤ人が生き延びていくためには当然のことなのだが、ポーランド人から見れば度し難い裏切り行為となるだろう。ウクライナ人からは、容赦ない、嫌らしい搾取者として、憎しみの直接的な対象となる。ポーランド人もウクライナ人もユダヤ人を殲滅する機会を執拗に窺うことになる。
こうして、20世紀における「ガリツィアのユダヤ人の歴史」は、「ポグロムからアウシュヴィッツへの歴史」となった。生き延びたユダヤ人は2、3%に過ぎないと言われる。随所に挿入された著者による現在のリヴウのシナゴーグ跡の写真は「廃墟」そのものであり、人の気配はない。

本書において「ガリツィア」を舞台に、ユダヤ人の悲劇の歴史的原因を探ろうとした著者の試みは、見事に成功したと言える。ユダヤ問題の本質を洞察していく回廊が、「ガリツィアの歴史」から、著者によって周到に準備されている。しかし、ここに描かれた世界は、著者がかつて参加した「近代ヨーロッパの探求、『民族』(ミネルバ書房2003年)」などを読んでいない限り分からないことである。「研究論文」は存在するが、一般にはほとんど紹介されていない。「ウクライナ語に不案内な自分が・・・」と著者は謙遜するが、「ガリツィアの悲劇」を描いた功績は大きい。この書物が一般に読まれないことを、深く悲しむものである。
著者はユダヤ人にとって「嫌われる原因となるような事柄が、しばしばその地で自分たちが生きていく唯一の選択肢であった」と書く。多分その通りなのだが、人は、嫌われても、それが合理的な利益や魅力に富む生き方ならば、それを望むものなのだ。中央ヨーロッパ世界に生きたユダヤ人も与えられた条件の中で最善のものと考えてその生き方を選んだのだのに違いない。
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